春の暖かい光が病室に差し込む。

 入院生活が長くなるにつれて、俺の身体は確実に衰えていった。

 ギターの弦を押さえる指先が震え、声も長くは続かなくなっていた。

 けれど——音楽は、まだ俺の中にあった。

「湊……無理しなくていいからね」

 紗希が優しく手を握ってくれる。

「うん……でも、もう少しだけ弾かせて」

 俺は微笑んで答える。

 真も隣で笑っていた。

「さすがだな、しぶといぞ、湊は」

 俺たちは3人で、最後の最後まで音を鳴らし続けた。



 そんなある日——

 俺たちの楽曲が、SNSで思わぬ形で拡散されていた。

 全国大会の映像が再編集され、感動のバンドストーリーとして広まり始めたのだ。

【余命宣告を乗り越えて——FIRE FLAME 奇跡のステージ】

 再生数は瞬く間に伸び、ネットニュースやテレビでも取り上げられるようになった。

「これ……すごいことになってるぞ!」

 真がスマホの画面を見せながら興奮している。

「湊、全国から応援メッセージが届いてるよ!」

 紗希も涙ぐみながらコメント欄を読んでいた。

『感動しました』『彼らの音楽に勇気をもらった』『奇跡は本当にあるんだね』

 その言葉のひとつひとつが、胸に染みた。

「……ありがとう。こんなにたくさんの人に届くなんて、夢みたいだ」

(この世界に、俺の音は残せたんだ——)



 そして——

 全国大会の運営からも連絡が届いた。

 FIRE FLAMEへ特別功労賞が授与されることが決まったのだ。

「お前ら、表彰式だってよ。すげぇぞ!」

 真が叫ぶ。

 紗希は俺の手を強く握りしめた。

「湊……よかったね。本当に……」

 俺は、涙を堪えながら微笑んだ。

「……生きててよかった。本当に、ありがとう」



 表彰式当日——

 車椅子に乗せられた俺は、舞台に向かった。

 客席からの温かい拍手が、まるで春風のように優しく包み込んでくれる。

 壇上に立った司会が、マイクで紹介した。

『彼は、限られた時間の中で、音楽を通して奇跡を起こしました——』

 スポットライトが当たる中、俺はマイクを握った。

「——奇跡は、信じることで生まれると教えてくれました」

 少し息が苦しくなりながらも、必死に続けた。

「ここまで支えてくれた家族、仲間、そして——紗希、真……本当にありがとう」

 客席の紗希が、涙を流しながら何度も頷いていた。

 真も目を赤くして拍手を送ってくれている。

 俺は最後の力を振り絞り、笑顔で言った。

「——生きてて、本当によかった」

 その瞬間、客席から割れんばかりの拍手が湧き起こった。

 まるで——音楽が、奇跡が、この空間全体に響き渡っているようだった——。