春の暖かい光が病室に差し込む。
入院生活が長くなるにつれて、俺の身体は確実に衰えていった。
ギターの弦を押さえる指先が震え、声も長くは続かなくなっていた。
けれど——音楽は、まだ俺の中にあった。
「湊……無理しなくていいからね」
紗希が優しく手を握ってくれる。
「うん……でも、もう少しだけ弾かせて」
俺は微笑んで答える。
真も隣で笑っていた。
「さすがだな、しぶといぞ、湊は」
俺たちは3人で、最後の最後まで音を鳴らし続けた。
*
そんなある日——
俺たちの楽曲が、SNSで思わぬ形で拡散されていた。
全国大会の映像が再編集され、感動のバンドストーリーとして広まり始めたのだ。
【余命宣告を乗り越えて——FIRE FLAME 奇跡のステージ】
再生数は瞬く間に伸び、ネットニュースやテレビでも取り上げられるようになった。
「これ……すごいことになってるぞ!」
真がスマホの画面を見せながら興奮している。
「湊、全国から応援メッセージが届いてるよ!」
紗希も涙ぐみながらコメント欄を読んでいた。
『感動しました』『彼らの音楽に勇気をもらった』『奇跡は本当にあるんだね』
その言葉のひとつひとつが、胸に染みた。
「……ありがとう。こんなにたくさんの人に届くなんて、夢みたいだ」
(この世界に、俺の音は残せたんだ——)
*
そして——
全国大会の運営からも連絡が届いた。
FIRE FLAMEへ特別功労賞が授与されることが決まったのだ。
「お前ら、表彰式だってよ。すげぇぞ!」
真が叫ぶ。
紗希は俺の手を強く握りしめた。
「湊……よかったね。本当に……」
俺は、涙を堪えながら微笑んだ。
「……生きててよかった。本当に、ありがとう」
*
表彰式当日——
車椅子に乗せられた俺は、舞台に向かった。
客席からの温かい拍手が、まるで春風のように優しく包み込んでくれる。
壇上に立った司会が、マイクで紹介した。
『彼は、限られた時間の中で、音楽を通して奇跡を起こしました——』
スポットライトが当たる中、俺はマイクを握った。
「——奇跡は、信じることで生まれると教えてくれました」
少し息が苦しくなりながらも、必死に続けた。
「ここまで支えてくれた家族、仲間、そして——紗希、真……本当にありがとう」
客席の紗希が、涙を流しながら何度も頷いていた。
真も目を赤くして拍手を送ってくれている。
俺は最後の力を振り絞り、笑顔で言った。
「——生きてて、本当によかった」
その瞬間、客席から割れんばかりの拍手が湧き起こった。
まるで——音楽が、奇跡が、この空間全体に響き渡っているようだった——。
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