君と紡いだ奇跡の半年

全国大会が終わり、数日が経った。

 けれど、奇跡のような延長戦も、静かに終わりへと向かっていった。

 あの日を境に、俺の体は目に見えて衰えていった。

 朝起き上がるのもつらく、階段を登るだけで息が切れた。
 ギターを持つ指先ももう震えを隠せなくなっていた。

 検査の結果も、はっきりと進行を示していた。

「……湊くん、そろそろ入院を本格的に考えましょう」

 医師の言葉に、母さんはそっと俺の手を握りしめた。

「……わかりました」

 声は震えそうになったが、なんとか微笑んだ。
 これが——残された奇跡の時間の、最後のステージになる。



 入院が始まってからも、真と紗希は変わらず毎日のように病室に通ってくれた。

「おう、今日も練習だぞ!」

 真がギターとベースを抱えて現れる。

「湊の音がなきゃ始まらないからね!」

 紗希もキーボードを持ち込んでくれる。

 病室の中に、またあの日々の音が戻った。



 だけど、それも長くは続かなかった。

 少しずつ、俺の体は動かなくなっていった。

 楽器を抱える力が入らなくなり、息が続かなくなり、目を閉じる時間が増えていった。

 今は、ただ手を握り合って会話をするだけの時間がほとんどになっていた。

「湊……今日も、手、冷たくないね」

 紗希がそっと俺の手を撫でる。

「紗希が握ってくれてるから、あったかいんだよ」

 紗希は泣きそうになりながらも微笑んだ。

「……ほんとに、強いんだから」

 ベッドの隣に座る真も、静かに肩を揺らしながら笑う。

「なあ湊……お前、マジで最後までロックだな」

 俺は微かに笑い返した。

「俺たちのバンドは、世界一だったろ?」

「当たり前だろ!」

 真が力強く答えた。



 日が暮れて、真は帰り、紗希だけが残った。

 小さく灯るナースステーションの光だけが静かな病室を照らしていた。

「湊……」

 紗希が俺の手を握ったまま顔を寄せてくる。

「……私、ずっと言いたかったことがあるの」

「なに?」

 紗希は目を潤ませながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「……好きだよ、湊」

 胸の奥が温かく満たされていった。

「……俺も、紗希が好きだよ。ずっと」

 紗希は涙を浮かべたまま微笑み、手を強く握り返してくれた。

 そっと目を閉じると、深い眠りが静かに訪れていった——