君と紡いだ奇跡の半年




夏フェスの成功は

俺たちのバンドに大きな自信をくれた。



 学内でも、学外でも、少しずつ名前が知られていき

SNSでもフォロワーが増え始めた。

 俺たちはまさに、青春の絶頂にいた。

 けれど——。

 その幸せの裏で、身体は静かに悲鳴を上げ始めていた。




 夏フェスが終わった翌週——

 次の日常が、何事もなかったように始まった。

 だけど、俺の中では少しずつ変化が積み重なっていた。

 疲労は抜けにくくなり、頭痛の頻度も以前より増えた。

(……兆候が出始めてる)

 医者からは「進行は緩やか」と言われていたが、それでも腫瘍は確実に俺の中で育っている。

 音楽室での練習中——

「湊、大丈夫?」

 紗希が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「ちょっと疲れてるだけ。平気だよ」

 そう言って笑ってみせる。

 けど、その嘘もそろそろ限界だと自分では分かっていた。

 真も、気づいているのかもしれない。何も言わず、ただじっと俺を見つめていた。



 夜、自室のベッドに横たわりながら天井を見つめる。

(時間が戻ってから、ここまでこれた)

(本当に幸せだった。けど——)

 カレンダーに目をやると、初めに余命宣告を受けた日から既に4ヶ月以上が経っていた。

(残り、あとわずかだ)

 眠れぬままスマホを手に取り、バンドのグループチャットを開いた。

【次のライブも全力で行こうぜ!】

【もちろん!】

【うん、最高のライブにしよう!】

 紗希と真の返信がすぐに返ってきた。

 それを見た瞬間、涙がじんわりと滲んだ。

(ありがとう。お前らがいるから、ここまで走ってこれたんだ)

 でも、このままでは終われない。

(最後まで……最高の未来にする)



 次のイベントは、秋の地域音楽祭。

 今度は屋外ステージでの大規模なイベントだった。

「もう秋なんだな……」

 控室の外で風に当たりながら、俺はつぶやいた。

「早いよな。夏フェスから、あっという間だもんな」

 真が隣で腕を組んで笑う。

 紗希も控えめに笑った。

「でも、こんなに濃い数ヶ月は初めてだよ。ずっと夢の中にいるみたい」

 俺はそっと紗希の方に目を向けた。

(この数ヶ月は、紗希への想いもどんどん強くなってる——けど)

 それを言葉にする勇気は、まだ持てなかった。

(最後に必ず、全部伝えよう)

 心の中でそう決めるだけだった。



 そして、秋の音楽祭本番。

 夕暮れの光に照らされながらステージに立つ。

「みんな、今日は来てくれてありがとう!」

 マイク越しに叫ぶと、大きな拍手が返ってきた。

 観客の中には、クラスメイトや先生たち、家族の姿も見える。

 父さんと母さんも、手を振ってくれていた。

(この景色を、絶対に忘れない)

 演奏が始まると、もうすべてが無心だった。

 音楽が全てを包み込み、客席と一体になっていく。

 紗希のコーラスは澄んだ夜空に溶け、真のベースは大地を揺らすように響いた。

『どんな未来でも、君となら越えていける』

 最後のフレーズを歌い終えたとき、目頭が熱くなっていた。

「……ありがとう!」

 マイク越しに最後の想いを叫び、深く頭を下げた——。