幼馴染×存在証明

俺は胸元のネクタイを緩めて、例のテーブルを見て目を細めた。


一気にシャンパンを流し込んだせいか、少し体が熱い。


ふと、抱き寄せた目の前の少女を見る。


仮面で顔は分からないが、雰囲気で緊張しているのが分かる。


彼女に声をかけたのは、会場内で1人、暇そうにしていたと言うのもあるが、1番は、彼女の着ていたドレスが原因だ。


見覚えのある深い青の装飾は、確か、自分が相方に選ぼうとしていたタキシードと同じ装飾で。


今はこの会場の責任者でもある"彼"の胸元で光っている装飾だ。


独占欲、強いな。


彼女を見つけた時、彼の顔を思い浮かべて思わず苦笑した。


きっと、俺の考えが間違っていなければ、彼女があの有名な三嶋アスカの右腕なのだろう。


いや、元…だろうか?今ではあまりその名を聞かなくなった。


学内での2人はそれほど深い関係だとは思えない。


現に、自分は2人が一緒にいる所を見たことがなく、だから彼女の顔も名前も知らない。


つい好奇心に駆られ、話しかけたのが20分前。


話してみると、これがなかなか楽しくて。


同じくらいの歳の女性で、彼女のように理路整然として自分の意見を述べる人は少ない。


俺はますます彼女のことが気になって。


もっと話したい、そう思っていた時に、突然彼女が黙り込んだ。


仮面で表情は分からないが、手に持っているグラスを固く握りしめているようで。


彼女の視線を辿ると、俺もあることに気付いた。


「‼︎」


いくつかのグラスが置いてあるテーブルの上に、見覚えのあるシャンパンボトルが1つ、ボトルクーラーの中に刺さっている。


あれがなぜここに。


きっと俺でなければこれだけのヒントで、彼女が強張っている理由は分からなかったと思う。


何故ならあれは、俺が開発にあたって何度も目にし、手に取ったボトルシャンパンそのものだったからだ。