幼馴染×存在証明

私はフロアの料理を指差して言う。


ちょうどその先では遥が楽し気にプレートに食べ物を取り分けている。


「ふむ、メニューには特に問題がなく見えますが?」


「ええ、どれも手の込んだ料理で、見栄えや組み合わせも良いです。問題なのはタイミングで」


男は顎に手を当て、なるほど、と呟く。


「イベントの組み込みはイレギュラーだったのかもしれませんが、会の序盤…ましてやパートナー決めのダンスの時間に、会場中がフードの香りになってしまうのは勿体無いと思うんです」


続けて。と、男が促す。


「温かい料理であれば、保温器材が必要になりますし、会場に長く出していればそれだけ状況確認に人手も必要になります。

私だったら、イベントの間は、クッキーやマカロンなどの軽食を省スペースで提供する程度で、メインのお料理は皆さんが落ち着いたころに提供します。」


ほっぺを抑えて、幸せそうな仕草をする遥を遠目に、私は苦笑しながら続けた。


「…ただ、料理を楽しみにされている方も多いので、一概に、とは言えませんが」


ふと、まだ手をつけていない、手元のグラスを眺め、口に近づけてみる。


バラ科の、甘い果物の香りが、弾ける炭酸の水泡に乗って漂ってきた。


「タイミング…言われてみると気になりますね」


「あぁ、正確には、違和感の一つ、という感じで。本当の意味で違和感に感じているのは…」


そこまで言って言い淀む。


私が感じている本当の違和感、それは。


それら全てがアスカらしくない、ということ。


私が気付けることに、彼が気付かないわけがない。


いくらイレギュラーがあったとは言え、仮面を用意する時間があるなら、料理を出すタイミングくらい、ずらせたはず。


それをしなかったのは、佐倉先輩と反りが合わないから…なんて私情を挟むタイプではない。


生徒会審査の一環であるなら尚のこと、修正したはずなのだ。


疑問を投げてくる視線に居心地悪くなり、手にしていたドリンクを一口飲んだ。


「…!」


その瞬間、感じていた違和感が何か良からぬ不安となって、胸のざわめきを一際大きくさせる。


これ…多分、お酒だ。


パッとグラスを口から離し、このグラスをウェイターに貰ったあたりの場所を見る。