幼馴染×存在証明

「やったァーッ‼︎」


はしゃぐ遥をよそに私は東雲先輩に駆け寄った。


「先輩!大丈夫ですかっ‼︎」


東雲先輩は手首を押さえている。


きっと、私のボールを受けた時にやったのだろう。


「大丈夫…、少し捻っただけ。

俺は普段ラケットを握らないから、そのための筋肉がついてない。

…今まではそれで通用してたけど」


東雲先輩は珍しいものを見るかのように自分の手を眺める。


そして心配する私を見て、なぜか少しだけ嬉しそうに目を細めた。


「正真正銘、涼香の勝ちだよ」


「先輩…」


遠くから、テニス部員が慌てて救急箱を持ってくる。


先輩はそこから湿布やテーピングを取り出し、器用に手首に巻きつけはじめた。


「私がやります」


それを静止して、先輩の手を取り、慎重にテープを巻いていく。


「…先輩はどうして私に勝負を持ちかけたんですか」


私はずっと思っていたことを聞く。


されるがままの東雲先輩は、暇そうに空を仰ぎ、呟いた。


「あー…、知りたくて」


「?」


「俺は大抵のことは知識だけで習得も理解もできるから、」


東雲先輩は続けて言う。


「だから、涼香みたいな予測不能な人間に会うと、どうしても惹かれるんだよね」


答えになってる?、と首を傾げる先輩に、少し自分の頬が熱くなるのを感じた。


緊張を解くように一息ついて、巻いたテープの端が捲れないよう保護ネットをあてる。


「できました。キツくないですか?」


テーピングが終わった手を先輩は前後に動かす。


「…手際いいね。涼香って何でも出来るの?」


「い、いえ、それは東雲先輩こそだと思いますけど」


褒められて頬が再び熱を持とうとするのを抑えながら、救急箱を片付ける。


何も問題なく処置できたようで安心した。


すると、先輩は私の手を止めて、ずいっと顔を近づけてきた。


「日凪(ひな)でいいよ。」


「え?」


「東雲日凪、俺の名前」


「流石に、呼び捨ては…。日凪先輩、でどうですか?」


私がそう言うと、日凪でいいのに、と言いながら先輩は立ち上がる。


「じゃあ、新歓の時はよろしくね、涼」


りょう?


距離が縮まったと言うことで良いのだろうか。


久々に呼ばれた呼び方に、むず痒くなる。


日凪先輩が去った後、入れ替わるようにして佐倉颯がやってきた。


「2人とも、とても強くて驚きました」


佐倉颯は困り眉で肩をすくめる。


ふと、彼の強いサーブを思い出し、私はジトっと佐倉颯を睨んだ。


「それはこちらの台詞です。先輩、本気でやりましたね?」


すると、佐倉颯ーー、佐倉先輩は、その顔を見て驚いたように固まり、次の瞬間破顔する。


「ふっ…くく、それは、もう」


可笑しそうに笑う佐倉先輩を見て、ツキリ、と胸に刺激が走る。


先程、日凪先輩に、涼と呼ばれたばかりだからだろうか。


どこか懐かしいような、哀しいような、胸がジクジクと傷む気がした。