幼馴染×存在証明

その瞬間、ツキ、と胸が軋んだ。


目の前の青年は、真っ直ぐに、とても冗談なんて言っているようには見えないからこそ、心がざわついた。


不安を煽るように風が吹き、地面に落ちている桜の花びらが舞う。


彼の言葉に心当たりなら、ある。


ただ、そんなはずはないと記憶が答える。


だってあの子は…女の子だから。


「すみません、誰から聞いたのかは知りませんが、私の知る"さくら"は……少なくとも、友達ではありません。

私を揶揄っているのなら、」


そこまで言って彼の顔を見たところで、ドキッとした。


傷付いたような、そんな顔。


とてもじゃないが、揶揄っている…とは思い難い。


「……あなたが、"さくら"を知っているとして…、何かを言われてここに来ているのなら、私のことは忘れるように、伝えてください。

……いえ、私とは会えなかったことにしてください。」


きっと、その方が彼女にとって良いだろうから。


そう心の中で続けて、ゆっくり、手を解き、その場を後にする。


何か言われるかと思ったが、彼は、佐倉颯は、無理に引き止めたりも、追いかけたりもしてこなかった。