幼馴染×存在証明

食堂を出て、中庭を過ぎ、長い渡り廊下を歩く。


「急に連れ出してすみません、お昼、途中でしたよね?」


私の手を引き前を歩く彼は、申し訳なさそうに口にした。


「…いえ、気にしないでください。ほとんど食べ終わっていたので」


それに、片付けは美久に頼んできている。


それよりも、佐倉颯と面識なんてあっただろうか。


名前を覚えられているほどの関係なら、私も覚えているはずなのだが。


何度か出席した三嶋のパーティにも、同じくらいの年の芸能人はいなかったはず。


「私に、何か用ですか?」


そう問いかけると、彼はピタリと歩くのを止めた。


食堂からだいぶ離れたからだろうか、あたりは静かで、風が木々を揺らす音も聞こえる。


振り返る彼の前髪が揺れ、木漏れ日がキラキラと反射した。


「あの、突然こんなこと聞くのも変ですけど…

俺のこと、覚えてませんか?」


なんだか少し、哀しそうにも見える笑みを携え、そう聞いてきた。


おそらく芸能人として、の佐倉颯ではないのだろう。


それくらい、顔を見れば分かる。


だが、残念ながら、記憶にはない。


「すみません、何か人違いでは」


そう言って適当なところで立ち去るつもりだった。


けれど、彼は私の手を離そうとしない。


「……さくら、です。」


彼の手の震えが、私の腕に伝わってくる。 


「…?」


真剣な声音に、私は首を傾げた。


「"さくら"です、…あなたが幼い頃の、友達の」