その夜もまた、店に来てしまった
何回目だろう
自分でもわからなくなってた
扉をくぐると
変わらないシックな店内の空気に
少しだけ安心する自分がいた
「こんばんは」
「こんばんは」
飛悠が席に来る
いつもと同じように挨拶して
いつもと同じように静かに座る
だけど──
今日は少しだけ、違う空気を感じた
「…最近ほんとに常連みたいになってきたね」
「…うん」
「飽きない?」
「飽きてたら、来ないってば」
その返しに
飛悠は少しだけ目を細めた
「…ふーん」
たったそれだけなのに
心臓がまたドクドク鳴る
会ってるだけなのに
どんどん欲が出てくる自分が怖い
もっと話したい
もっと知りたい
もっと近づきたい
でも──
「今日、私くらいの若い子多かった?」
ふと聞いてみた
何気ないふりをして
飛悠は軽く首を振った
「いや、別に。最近は大人の客が多いかな」
「そっか」
ほんの少しだけ、ホッとした
「…玲那」
珍しく名前を呼ばれた
一瞬だけ心臓が跳ねた
「…なに?」
「ほんとに…大丈夫なの?」
「なにが?」
「こんな店に、こんな時間に来て」
いつもより、少しだけ優しい声だった
「…別に」
短く答えたけど
胸の奥が妙にざわついてた
──今のは、なんだったんだろう
ただの社交辞令?
それとも少しでも気にしてくれてる?
わからないまま
その夜は静かに過ぎていった



