文化祭当日

 


朝からクラスの模擬店準備でバタバタしてた

 

美奈ももちろん隣で準備してるけど――

 

なんとなく
今朝から美奈と目が合わなくなってる気がした

 

いや
正確には――

 

俺が、避けてる

 

“ほんの少しだけ回る”って美奈の言葉が
ずっと頭から離れねぇ

 

別に怒ってるわけじゃねぇ
美奈が悪いわけでもない

 

だけど
なんか…自分でもよくわからないモヤモヤが消えなかった

 

 

「怜、飾り付けそっちお願い」

 

「ああ」

 

美奈はいつも通りに接してくれてる

 

でも
俺は少しわざとらしく距離を置いた

 

普段なら冗談混じりにからかったり
ちょっかい出すところなのに

 

今日は
それが妙にできなかった

 

 

ふと美奈が
隣のクラスの一年のやつと話してるのが視界に入る

 

たぶん、昨日のあの男だ

 

笑顔で軽く会話してる美奈を見た瞬間
胸の奥がきゅっと締め付けられた

 

“ほんの少しだけ…か”

 

また同じ言葉が頭をよぎる

 

俺は無意識に少し背を向けた

 

「怜?」

 

後ろから美奈の声がした

 

「…ん?」

 

「なんか今日…変じゃない?」

 

「別に。普通だろ」

 

「…そ?」

 

美奈もそれ以上何も言わなかった

 

けど
少しだけ寂しそうな顔をしてたのはわかった

 

 

それが余計に
俺の中のモヤモヤを強くしていく

 

“…別に、美奈は悪くねぇ”
“でも なんでこんなに苦しくなんだよ”

 

 

文化祭の人混みの中で
俺たちの距離は、普段よりほんの少しだけ遠かった