文化祭前日
放課後の校内は
いつもよりずっと賑やかでざわざわしてた
俺と美奈は、それぞれの作業分担で別行動になってた
「怜、準備室から追加の備品取ってきてくんね?」
「ああ 行ってくる」
廊下を歩きながら、ふと窓の向こうに目がいった
ちょうど中庭のベンチ
そこに――
美奈がいた
誰かと話してる
制服の感じからして
…一年下のやつか
美奈の目の前で
そいつが少し緊張した面持ちで何か話してるのが見えた
はっきりとまでは聞こえない
でも表情でだいたいわかる
…ああ、告白じゃない
“でも、あれは――誘ってんのか”
美奈は驚いたように目を丸くしてた
その一年の男は
勇気振り絞った顔で少し前かがみになる
そして、美奈の耳に届いたその言葉は――
「よ、よかったら…文化祭、少しだけでもいいので…一緒に回りませんか…?」
美奈は一瞬だけ戸惑った表情を浮かべた
それから
少し困ったように微笑む
「えっと…」
一瞬だけ迷ったあと
小さく息を吐いて続けた
「じゃあ…ほんの少しだけなら…」
その言葉に男はパッと表情を緩めた
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます…!」
男は嬉しそうに頭を下げて
慌ててその場を去っていった
美奈は軽くため息を吐きながら
その背中を見送る
――俺はその全てを見てた
言葉が出なかった
ポケットの中の拳に
無意識に力が入る
“断らなかった…のかよ”
喉の奥が苦しくなった
けど、声にならない
美奈は俺の存在に気づくこともなく
準備に戻っていった
俺はしばらく動けずに立ち尽くしていた
“…ほんの少しって なんだよ”
“だったら…俺は どこにいればいいんだよ”
静かに深く息を吐いて
備品室へ歩き出す



