放課後
下校時間になった頃
朝の晴れが嘘みたいに
空がすっかり暗くなってた
「…やば、降ってきた」
美奈が小さく呟いたその直後
ポツ…ポツ…と
冷たい雨粒が落ちてくる
傘なんて二人とも持ってない
「マジかよ…」
駅まであと少しだったのに
雨脚は一気に強くなりはじめた
「ほら、あそこ入ろ」
俺は近くの駐輪場の屋根の下に美奈の腕を引いて駆け込む
「濡れてね?」
「だ、大丈夫…怜の方がビショビショじゃん」
「ま、男は平気だろ」
濡れた髪を軽くかき上げながら
美奈の肩にふわっと視線を落とす
制服の肩口も微妙に湿ってる
「お前、寒くねぇ?」
「だ、大丈夫だってば…」
そう言いながらも
美奈の声はほんの少し震えてた
俺は黙って自分の上着を脱いで
無理やり美奈の肩にかける
「ちょ、怜…」
「いいから着とけって」
“…大丈夫って言ってるのに”
小さく聞こえた独り言に
思わず少し笑ってしまう
雨の音だけが響く空間
俺も美奈も自然と無言になった
その沈黙が
逆に心臓の音をやけに響かせてくる
チラッと横目で美奈を見た瞬間
ちょうど美奈もこっちを見てて
バチッと目が合った
「…何?」
「別に」
“…何この空気”
美奈が心の中で動揺してるのが丸わかりだった
「…さ」
不意に俺が切り出す
「美奈さ」
「な、なに…?」
一歩だけ距離を詰める
「俺のこと嫌いだったら…今みたいに一緒にいねぇよな?」
「は!?…そ、それは…」
「ほら、黙るってことは そういうことだろ?」
わざと低く囁いてやる
「ずっと言いたかったんだけどさ…」
そこでふと雨音が強まって
一瞬、言葉が飲み込まれた
美奈の目が少し揺れる
「い…言わなくていい」
美奈がポツリと呟いた
「今は…もうちょっと、このままでいい」
俺はその言葉を聞いて
ゆっくり息を吐いた
「…ああ そっか」
このまま、また
幼馴染継続ってことかよ…
「風邪引く前にダッシュで帰るぞ」
そう言って手を軽く引いた俺の指先を
美奈はそっと握り返してきた
なぁ
その無言の仕草が
お前の答えなのか?
教えてくれよ、美奈
ーーー



