あの日の喧嘩から数日後
ちゃんと仲直りしてからの初デート

 

駅前の待ち合わせ場所に着くと
美奈の姿がすぐに目に入った

 

俺が近づくより早く
美奈が小さく手を振ってくる

 

少しだけ揺れた髪
薄いピンクのワンピースに、小さなイヤリング

 

いつも見てるはずなのに
今日の美奈はなんか違って見えた

 

「……待たせた?」

 

「ううん、今来た」

 

「……絶対少し早く来てただろ」

 

「なんで分かるの」

 

美奈が照れて目線を逸らす

 

 

ふっと笑って
俺はそっと美奈の顎を軽く指先で持ち上げた

 

「顔に出てんぞ」

 

そう言って手を伸ばし
指を自然に絡めて繋ぐ

 
 

「…っ…」

 

美奈が小さく息を呑んだのが分かった

 

俺は微笑んで、そのまま手を引く

 

「ほら、行くぞ」

 

 

ショッピングモールでは
美奈の歩くペースに自然に合わせて歩いた

 

エスカレーターでも
そっと美奈の腰に手を添えて支えながら上がる

 

「……ちょっと、こういうの慣れてきた?」

 

「お前のことなら全部お任せあれ」

 

「……もう、またそういうこと言って…」

 

美奈の耳がまた赤くなる

 

 

昼食を終えて歩いてる途中
アクセサリーショップの前で美奈が足を止めた

 

「これ、可愛いかも…」

 

ふと見つめていた小さなペアリング

 

無言で美奈の指を軽く取る
指先にリングサイズを測るみたいに触れた

 

「え、なにして…」

 

「ん、参考」

 

俺はそのまま店員に声をかけて購入する

 

「ちょ、ちょっと怜…!」

 

「いいから」

 

「だって…え、ほんとに買うの…?」

 

「当たり前」

 

 

美奈の指にそのままリングを通す

 

指先が少し震えてた

 

 

「ほら、ぴったり」

 

「……ほんと、こういうの…急にするの、反則だよ」

 

「俺は最初からそのつもりだったけど」

 

美奈が顔を伏せて両手で口元を隠す

 

耳まで真っ赤になってるのが丸わかりだった

 

 

帰り道

 

夕暮れの並木道で、美奈が少し歩幅を狭めて俺の隣に寄ってくる

 

「…今日、ずっとドキドキしてる」

 

「んだそれ」

 

「なんか…怜の隣、安心するけど、ずっとドキドキする…」

 

 

俺は美奈の髪をそっと耳にかけた

 

そのまま顔を少し近づける

 

「今日だけじゃない」

 

「え…?」

 

「これからずっとドキドキしてろよ」

 



美奈が照れて目をそらす
でもすぐにそっと俺の袖を掴んだ

「…ほんと、好き」

 

「んなの 俺もだ ばーか」

 

 

夕暮れの光が背中を照らして
自然とゆっくり顔が近づく

 

そっと重なった唇

 

短くて、でもやわらかくて
ずっと重ねたくなるくらい優しいキスだった

 

 

離れた後も
美奈は俺の胸元にそっと額を寄せたまま

 

小さく、息を吐くみたいに囁く

 

「……なんか、また例のこと好きになったかも」

 

 

その言葉に
自然と口元が緩んだ

 

俺はゆっくり背中を撫でながら
低い声で囁く

 

「ならそれ 毎回更新させてやる 」

 

 

美奈は小さく笑って
俺のシャツの裾をぎゅっと掴んだまま、顔を上げない

 

 

この夕暮れも、この距離も、このドキドキも
きっと全部

 

今日が、またひとつ
特別な思い出になってくんだろうな――

 

 

そのまま二人、静かに手を繋ぎ直して
並んでゆっくり歩き出した

 

まだまだ続く
ふたりの新しい毎日が、ここからまた始まっていく

 

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