朝の空気は少し冷たくて
でも心は妙に落ち着かない
いつもの時間
いつもの通学路
そしてこれがいつもの朝
ピンポーン…
玄関が開いて、美奈が顔を出す
「怜おはよ!」
制服姿の美奈は朝から反則だ
「迎えに来た おはよ美奈」
並んで歩き出す俺たち
少し歩いたところで
美奈の手を握り、そのまま
自分の制服のポケットに入れる
「…え? なに?」
「別に。寒いだろ」
少しの間、美奈は戸惑ったように下を向いたけど
手はそのままポケットから離さなかった
そんなとこがまた可愛い
「今日ちょっと雰囲気違う 髪、染めた?」
ふと俺の髪に視線を向けて言ってくる
「ああ ちょっとだけ」
「怜はほんとすぐそういうことする…卒業できなくなったら困るんだからね?」
「心配してんの?」
軽く顎を指で持ち上げて目を合わせると
美奈はムッとして目を逸らす
「ちがうし!怜のママの代わりに見張ってるだけだから」
おでこを軽くコツンと弾かれる
ほんと強がるくせに顔はすぐ赤くなる
「…それより早く彼女作りなよ?」
突然そんなことを言い出す
「ゼロ距離でくっついてくるからさ、怜目当ての女子に私が目つけられて困るんだけど」
「やだよ 彼女作るなら美奈がいい」
その瞬間、美奈の足が止まる
振り返る顔は少し驚いて 少し照れてる
「は?…何言ってんのバカ」
そのあと、小さくボソッと呟く
“誰にでもそういうこと言ってるくせに…”
ちゃんと聞こえてる
「誰にでも言わねぇよ お前だけ」
美奈はますます顔を赤くして目を逸らした
「…そ、そういうのは…カップルがやることだから」
「だったら...そうなればいいじゃん」
耳元ギリギリまで顔を近づけ
低く囁く
美奈の耳が真っ赤になっていくのがたまらなく可愛い
“…ほんとバカ”
また小さく独り言
「…もう!ほら行くよ!学校まで競争!」
突然走り出す美奈
「おいおい 置いてくなって」
軽く笑いながらダッシュで追いかける
すれ違いざまに耳元で囁く
「美奈は俺の…って 続き気になる?」
「は!?何言ってんの…!」
顔が真っ赤になった美奈に追い打ちかけながらスパート
昇降口に着く頃には俺が先着
「ほら 俺の勝ち」
「怜早すぎ〜!」
息を切らせて二人で笑う朝
“…なんでこんなにドキドキしてんの私”
美奈の独り言が聞こえてる気がする
「負けた罰ゲームは そのうち回収するから 覚悟しとけよ」
わざとらしく美奈に耳打ちする
「楽しみにしとけ 美奈」
ーーー



