玄関の鍵が回る。
少し湿った夜の空気が外から入り込んだ。
足音はひとつ。真っ直ぐにこの場所を目指して帰ってきた男のものだった。

リビングの扉を開ける。
明かりのついた部屋の中。
ソファの横に置かれたクマと黒猫のぬいぐるみ、閉じかけたカーテン、キッチンから香るかすかな紅茶の香り。どこか懐かしく感じる「帰ってきた」という確かな実感。

その中に、ヨルの気配があった。

レオは上着を脱いだ。
自分が戻ってきたこの空間に――彼女が確かに「いる」という気配を丁寧に確かめるように、息を吐く。

手には、鍵を握ったままだった。
朝のあの言葉が、ずっと頭の中にこびりついている。

「……ただいま、ヨル」

低く、掠れた声が空気に滲んだ。

「おかえり、レオ」

彼の声に立ち上がると、少し声を弾ませて玄関まで迎えに行くヨル。先にお風呂を済ませたようで、ドライヤー後の熱が少し残った香りが届いていた。

「お仕事、お疲れ様」

彼の上着をそっと受け取ると柔らかな笑みを浮かべた。

ほのかに湯気を纏った髪の匂い。ただいま、の一言だけで満たされたはずの心が、一気に溢れ出しそうになる。

レオは上着を預けた手を、すぐには離さずにそっとその指先を掴んだ。
確かめるように、優しく。

「……ちゃんと、帰ってきた」

まるで約束を果たしたことを伝えるように。
そのまま一歩だけ前に出ると、掴んだ手を引き寄せて、ヨルの額に自分の唇を預けた。
キスというほど強くもなく、ただ、今日一日彼女に会えなかった時間を埋めるような、静かな熱。

「忘れてないよな、朝の約束」

囁く声は、いつもより低く、落ち着いているのにどこか熱を孕んでいた。
褒美をねだる子供のような彼に、思わず唇が弧を描く。

「覚えてるよ」

額に与えられた熱を感じたまま視線を上げると、レオの瞳を真っ直ぐ覗き込んだ。

"帰ってきたら、きみだけに可愛い声で鳴いてあげる"

我ながら大胆なことを言ったと思うが、それを期待して公務を終えてきた彼が愛おしくて仕方なかった。

「だから今日は、」

そこで意味ありげに言葉を切る。朝送り出した時から決めていた彼へのご褒美。約束を忘れずに、自分の元へと帰ってきたことへの悦びを乗せて、ゆっくり言葉を続けた。

「私のこと、好きにしていいよ」

ヨルの瞳が真っ直ぐにこちらを見上げて、あの甘い囁きを、もう一度――
静かに、でも確かに“許可”として告げる。

「……言ったな」

レオは低く、ひとつ息を吐く。
それはまるで、何かを解き放つ前の合図のように静かで、そしてゆっくりと。

玄関の照明が、美しい黒髪の光を撫でる。
目の前にいる彼女。
誰にも触れられたことのない、誰にも与えられていない彼女が、「好きにしていい」と、自分だけに許してくれる。

――その重さに、全身が痺れるようだった。

「……逃げるなよ」

声の熱がゆっくりと上がっていく。
彼女の腰に手を回し、すぐそこにある唇へはまだ触れず、頬を寄せて耳元に囁く。

「“無理”って言っても止めない。お前が許したんだからな」

耳にかかる吐息の温度すら、執拗な愛撫の前奏のように絡みつく。

そのまま、レオはヨルの手を引いて、いつもの場所。二人で日常を過ごしてきたソファへと静かに導いた。

「"いい子"にはちゃんとご褒美あげないと」

導かれるままに座り込むと近づいたレオの耳元に言葉を残した。そのままわざと少し距離を空けると悪戯な笑みを浮かべるヨル。

「……悪い顔してるな」

その笑みに、レオはわずかに目を細めた。
けれどそこに浮かぶのは呆れではない。確かに翻弄されているという自覚があって、それでも愉しんでいる――そんな色をした視線だった。

ソファの縁に手をつき、距離を詰める。
空けられた隙間なんて、意味がないとでも言うように、ゆっくりと膝を割って彼女を囲い込むようにして座る。

「……“いい子”のままでいられるとは限らないんだが」

視線はヨルの唇から逸らさない。
肩に手をかけ、ゆっくりと押し倒すようにしてソファのクッションへ預けていく。
自分の腕の内に収まった彼女の体温が、服越しにじわじわと伝わる。

「好きにしていいって」

唇が触れる寸前のところで囁く。
けれど、まだ触れない。
焦らすように、彼女の頬や、耳たぶ、鎖骨の上に指先で触れては離して、反応をじっくりと確かめる。

「──どこまでされたら、“好きにされた”って思うんだ?」

問いかけは優しく、けれどその指先はどこまでも執拗に。
“ヨルが溶ける”まで、時間をかける気でいるのが、その手つきに滲んでいた。

「どこまでも。レオが満足するまで」

詰められた距離にたじろぐ様子は一切ない。まるで彼が何をするのか、ひとつひとつを視界におさめようと不敵に見つめ続けている。

「……強気だな」

囁くように吐かれた声は低く、かすかに喉の奥で笑っていた。
まるで「いいだろう」とでも言うように、レオはヨルの頬を一度だけ撫でたあと、ゆっくりと彼女の唇に口づける。

深く、長く、けれど急がない。
唇が離れたあとも余韻を残すようにそのまま額を合わせ、細く長い息をついた。

「……今日は理性を棄ててきた」

前置きはそれだけ。
そのまま首筋に唇を滑らせ、鎖骨に触れた指先はゆっくりと肌の上をなぞっていく。
やわらかな輪郭をたどるように、少しずつ、少しずつ。
焦らすようでいて、どこか祈るように丁寧に。

「……いつも我慢してる分、ちゃんと“好きに”させてもらう」

袖を捲った腕が、彼女の腰に回される。
ぎゅう、と抱き寄せるのではなく、じわりと力を入れて体温を吸い取るように引き寄せるその手つきには、欲情と愛情が混ざっていた。

「今日は“声”だけじゃ満足できそうにない」

それが何を意味するのか、わざと説明はしないまま、また口づけが落とされる。
肌と肌の境界を確かめるような、その愛撫の端々に、レオの――“好き”が染みていた。

「……っ」

僅かに呼吸が乱れるが、まだその表情は崩れないまま。優しく這う熱に満たされながら愛おしそうにレオを見ている。

「かわいいね、レオ……」

そう言うと、ヨルは自分を求めている姿に満足げに微笑んだ。

レオの眉がわずかに動き、唇が薄く綻ぶ。

「……かわいい、か」

そう呟きながらも、否定するような語気は一切なく、むしろヨルの一言が胸の奥を優しく撫でる。
視線はまっすぐ彼女の瞳を見据えている。

「そんな余裕、いつまで持っていられるか……」

低く、静かに。けれど確かに警告のように囁くと、ゆっくりと彼女の耳元へと唇を落とす。吐息混じりの声が鼓膜を揺らし、愛撫がゆっくりと熱を帯びていく。

シャツ越しに指が腰に沿って滑り、彼女の身体の輪郭を確かめるように撫でる。焦らすように、だが絶え間なく――その執拗さは、理性を抑えるつもりがないことの証だった。

ヨルの唇を、頬を、喉元を追いかけるように触れては離れて、またゆっくりと戻る。
まるで一度たりとも見失いたくないとでも言うように、執拗に、やさしく。

「……さっきまで、ずっとこの時間のこと考えてた」

くすぶるように熱を持った声。
言葉は理性の仮面を剥がすように落ちていく。

「おまえの声も、肌も、全部、思い出すだけで気が狂いそうで……」

そっとヨルの太腿に手を置く。
その指先は微かに震えている。けれど、それは躊躇いのためではなく、抑えても溢れる欲と――ヨルへの深い、想いの証。

「……もう我慢しなくていいんだな」

肌に落ちたキスひとつひとつに、言葉では語られない欲と、深い“好き”が詰まっていた。
ヨルの瞳に映るレオは、もう普段の自制を纏った男ではなく――彼女だけに向けた、欲の塊そのものだった。

「……んっ……」

いつにも増して執拗な触れ方に僅かに声が洩れる。無意識に手で口元を覆うが、眉を下げて少し困った笑みを浮かべていた。

「いいよ。全部……レオのもの、だから」

耳にかかる彼の温度に視線を逸らしながら、それでもちゃんと応えようとしてみせた。

「……そんな顔で名前を呼ばれたら……」

ヨルの言葉が喉奥に熱を落とす。
触れるたびに逃げ場をなくしていく彼女の表情が、たまらなく愛しくて――同時に、抗いがたいほど欲しくなる。

「こっちは、朝からずっと我慢してたんだ……」

低く押し殺したような声でそう囁くと、彼女の頬を指先でなぞりながら、首筋へ唇を落とす。
そこからゆっくり、ゆっくりと這わせるように下りていき、彼女がほんのわずかに震える場所を探り当てる。

「俺に、全部見せてくれ」

わずかに震えた太腿へと手が這い、指先で柔らかく撫で上げる。
身体の奥から熱を引き出すように、じっくり、ゆっくりと――焦らすでも急かすでもなく、ただ彼女の反応だけを頼りに進んでいく。

「声……我慢しないで。約束、だろ?」

顔を上げて、唇の端にだけ笑みを浮かべながら囁く。彼の目は真剣だった。甘く、優しく、そして容赦なく。
“ご褒美”という名を借りて、彼女の余裕が崩れるその瞬間を、愛おしく待ち焦がれていた。

レオの言葉が届くたびに少しずつ、きつく結んだ唇からかすかな吐息がこぼれていく。
自分でも制御できなくなっていく音に、ヨルは僅かに顔を顰めた。

「…………んぁ、……」

彼の目がすぐ近くにある。気づかれていないわけがない。そのことに苦笑しつつ、押し寄せる甘さに呼吸を乱し続けていた。

「……今の、可愛いな」

ヨルの小さく洩れた声に、レオの喉がごくりと鳴る。
触れた指先が微かに震え、思わず強く抱きしめてしまいそうになる衝動を、なんとか抑え込んだ。

「声、出さないようにしてるの……わかってる」

額を彼女のこめかみにそっと寄せるようにして、低く囁く。

「でも、聞きたいんだ。ヨルが……俺だけに、鳴いてるとこ」

彼女が必死に堪えているのが、たまらなく愛しい。だからこそ、もっと深く、もっと強く、触れてしまう。

ゆっくりと手を這わせ、甘く震える部分を確かめながら、じっくり、じっくりと愛撫を深めていく。
彼女が逃げ出さないように、でも壊れてしまわないように――本気で、大切に、ゆっくりと。

「もう我慢しなくていい……俺のだから。おまえの全部、聞かせて」

押し殺した声の奥に潜んでいた獣のような愛情が、表に滲み出す。
その熱に包まれながら、レオはヨルを決して離さず、丁寧に紡いでいった。

「……、んっぁ……」

囁かれる声にどれだけ堪えられないかを、彼は知っている。抗えない大好きなレオの声にヨルの鼓膜は震えていた。

「……っ、声、やめて……」

絞り出すように抗議する声も、掠れている。
ソファの布地を掴む。自分の理性を繋ぎ止めるために、唇をきつく噛んだ。

「……やめない」

レオの声は熱を孕みながらも低く静かで、ヨルの震える耳にそっと落ちる。
唇を噛む仕草さえも、レオにとっては愛おしくて、たまらなかった。

「そんな顔されて……やめられるわけがない」

掴まれたソファのすぐそばに、彼の手がそっと重なる。
力を込めすぎて白くなった指に触れ、そっと解きほぐすように優しく撫でる。

「我慢しなくていいって言っただろ。……俺へのご褒美なんだから」

レオはヨルの顔を覗き込む。
眉を寄せて、耐えるように目を伏せている彼女の姿に、愛しさが溢れて止まらない。

「恥ずかしいのも、声が出るのも……全部、かわいい」

そっとヨルの耳に唇を落としながら、じわじわと、さらに深く身体の奥へ触れていく。
ヨルが自分のものであるという実感を、何度でも、何度でも確かめるように。

「俺だけに見せてくれ……おまえの、全て」

耳元で囁かれる声に身体が跳ねる。
首を横に振ったが響く音は止まらない。

「……ぁ、っ……やだ、……」

掠れた声が、勝手に漏れた。
噛み殺したはずの音。
抑えたのに、零れた吐息。

「やだって……どうして?」

耳元で囁きながら、レオはヨルの震える声を、吐息のひとつひとつを、まるで宝物のように大切に拾い上げていた。
掠れた声がたまらなく愛しい。
必死で抑えようとするその姿が、余計に理性を揺さぶってくる。

「おまえの全てが好きだ……まだ伝え足りないか?」

言葉を落とすたび、レオの指先はゆっくり、しかし確実にヨルの奥へと愛を染み込ませていく。
もうどこにも逃がさない。今だけじゃない、これからもずっと。

「……声、もっと聞かせてくれ」

優しさに甘さが混ざる。
だけどその裏にあるのは、底なしの独占欲と執着――それを、隠そうともしない愛し方だった。

「なぁ……ヨル」

目を合わせる。
声も、息も、震えも、全部受け止めるように。
隠しているものをすべてほどいていくように、レオはゆっくり囁いた。

呼吸を整えようと息を吸えば彼の香りで満たされて、吐こうとしたら声が洩れる。どこをどう触れられたか、どんな声が響いているのか、その全部がはっきり残ってしまう。

「……っ、ぁ、ん……っ」

喉の奥からひゅっと音が漏れた。
彼の言葉ひとつ、吐息ひとつが、まるで“指”のように身体の奥を撫で回してくる。
無意識に肩が震えて、声が逃げていく。

「……ん、……っ、レオ……」

無意識に溢れたのは彼の名だった。
耳元で続く囁きに、どうしてこんなに体が熱くなるのか、もうわからない。

その小さな声に、レオの目が細められる。
呼吸が震え、体が熱を帯びて、逃れようとする心とは裏腹に、ヨルの全身が彼の愛に反応してしまっていること――それが、たまらなく嬉しい。

「……俺の名前、やっと呼んでくれたな」

低く落とされた声には、どこか安堵の色が混じっていた。
ずっと、彼女の口から溢れるその名を待っていた。無意識でも、自分を求めてくれたその証に、胸の奥が強く疼く。

唇が耳殻をなぞるように滑り落ちていく。
かすかに湿った吐息が、髪をかき分けたうなじに落ちる。

「もっと俺のために鳴いてくれ……」

ふるふると震える肩を、自分の胸にそっと抱き寄せる。壊れないように、でも確実に包み込むように。

「今夜は“ご褒美”なんだろ……」

頬に、額に、瞼に。
熱を乗せるように優しくキスを落としていく。

甘く低い声で囁きながら、レオの手は一度も乱暴になることなく、けれど執拗に、彼女を知ろうとする。
ヨルの“全部”が、自分だけのものになるまで。
満たして、奪って、愛し尽くす。

「……っ、ん、……、あっ……」

洩れていく声に、彼女自身が戸惑う。
頬は赤く染まり、いつもの落ち着いた表情はもうない。

「……レオ、そこ……だめ、っ……」

ヨルが身をよじるたびに、レオの唇が甘く追いかける。耳たぶをふわりと噛んで、吐息を送り込まれた。

「だめ、じゃない」

掠れた抗議を優しくなぞるように、レオの声が低く囁かれる。
残る余韻を確かめるようにもう一度、軽い音を立てて口づける。その直後、ぴくりと跳ねた肩に満足そうに目を細めた。

ヨルが拒もうとしたその場所を、彼は正確に覚えていた。声を押し殺そうとしても、どこが弱いのか、どう触れれば音が溢れるのか、すべてを知っている。

「そんな声出して……ほんとは、気持ちいいんだろ」

恥ずかしさに揺れるヨルの肩を、そっと抱きしめたまま、耳元で甘く囁く。
掠れた息と吐息が混じるような声で。

「もっと乱れて、」

彼女が必死で守ってきた“余裕”を一枚ずつ脱がせていくように、いつものヨルじゃ見せない表情を、声を、全部暴いていく。自分にだけ、聞かせてくれる声をなぞって。

「……俺にだけ見せてくれ」

そっと、肩を抱く腕に力を込める。
唇が顎をなぞり、首筋を撫でながら、また音を探して彷徨い始める。

「こんなヨル、他の誰にも知られたくない」

頬に指を添えて、視線を絡める。
もう逃げられない距離で、
囁くように、命令するように、彼女の奥に刻み込むように――

「“好きにしていい”って言ったのは、そっちだからな」

彼女の耳たぶをそっと啄む。
舌先を這わせ、ぬるく濡らして、再びふっと吐息を吹きかける。

まるで心を全部見透かされているような、底知れない愛しさが身体を乱し続ける。

「だめ……っ、や、もう……レオっ……」

彼女の目元は潤み、呼吸は浅くなっていた。
漏れそうな声を堪えるように、自分の指で口元をきゅっと塞ぐが、もう何の意味も持たない。

「……可愛いな、ヨル」

塞がれた唇の上から、レオはそっとキスを落とした。指先ごと、声を噛み殺そうとする仕草ごと、優しく奪う。
ヨルの抵抗なんて、もう何の役にも立たない。

「隠さなくていい」

低くて、穏やかで、それでいてどこまでも欲を孕んだ声。
ゆっくりと指に触れ、彼女の手を解かせると、
そのまま今度は――何度も、甘く、唇を重ねていく。

「……もっと声、聞かせて?」

耳に、喉に、胸元に。
求める気持ちが形になって、肌に落ちていく。
執拗に、じっくりと。まるで溺れるように。

「……ちゃんと、俺を感じて」

その声に、少しだけ震えが滲んでいたのは、
きっとレオの方こそ、限界だったからだ。
彼女のすべてが欲しくてたまらない、狂おしいほどに。

「ぁ……っ、ん……っ」

唇を重ねるごとに、堪えきれない甘く濡れた声が口内に響く。

一度、二度、浅く重ねて……やがてレオに引き寄せられるようにして、深く口を開く。
舌が触れ合い、熱が混ざり合うたび、彼女の肩がかすかに跳ねた。

「……レオ……や、だめ……お願い……もう、なにも、考えられない……」

乱れた呼吸のまま、力の抜け切った身体をレオに預けた。潤んだ瞳と共に涙混じりの声で。ヨルは言葉すらも形にならないほど、快感と愛しさに塗りつぶされていた。

レオは、その震える身体をしっかりと抱き締めた。

「……それでいい」

ヨルの髪を撫でながら、低く優しく囁く。
熱に浮かされた声も、潤んだ瞳も、力なく凭れかかってくるその体重さえも、全部が愛おしくてたまらなかった。

「もう、考えなくていい。俺だけ見ていればいい」

吐息混じりの声で囁くと、優しく、けれど深く、もう一度唇を重ねた。
舌先でそっとヨルの奥を探り、ためらいも遠慮もなく甘さを貪る。彼女の奥にある熱を、愛を、全部――残さず受け取りたかった。
ヨルの乱れた鼓動を胸に受け止めながら、静かに囁いた。

「最高のご褒美だ」

そっと肩口へと唇を這わせながら、彼女を何度も抱きしめる。肌に触れるたび、彼女の熱が染み込んでくる気がして。
もうどこへも行かせたくなかった。

その瞳は、どこまでも深くて重い愛情が灯っていた。彼女が全部を委ねてくれたからこそ、どこまでも甘く、執拗に――

「……んぁ……レオ……」

その瞬間理性のタガが外れたのか、焦点の合わない瞳で薄く開いた唇からは、微かな吐息と共にレオの名がこぼれていた。

「……もっと……レオっ……ちょう、だい」

レオの喉がかすかに鳴った。
欲しがるその声を、言葉を、ヨルの唇から聞かされて――すべてが焼き切れる音が、確かにした。

「……そんな声で、名前呼ぶな」

低く、熱のこもった声で呟くと、指先が彼女を優しくなぞる。
触れるたびに熱が移り、触れ返されるたびに心が溶けていく。

「欲しいって言ったのは、おまえだからな」

崩れ落ちるように、彼女の身体をふわりと抱き上げる。
そのままベッドへ移動し、体を寄せた。

「全部くれてやるから……逃げるなよ、ヨル」

頬に、首筋に、唇が這うように触れていく。
息が触れるたび、甘く啼くたびに、レオの動きはゆっくりと、しかし確実に激しさを増していった。
今夜だけは、“遠慮”も“抑制”も存在しない。

彼女が「欲しい」と言ったその言葉だけが、
すべての命令だった。

愛する彼女が、どこまでも甘く壊れていくその瞬間を、レオは誰よりも慈しむように、奪っていった。