そして現在……



夏希も、佐原も夜のことは忘れていなかった。
ところどころは曖昧だが……。


夏希は慌てながら、
ベッド下に落ちている自分の服を拾い、着た。

「え~と、伊藤。昨日のことやけどな……。」

ポリポリと顔を掻きながら、
佐原が照れたように何か話そうとしている。



『かわええ……』



そう言って何度もキスされたことを
夏希は思い出して、
真っ赤になりながら大きな声で叫んだ。

「ぎゃあああ!!」

「わっ、伊藤叫ぶなや!」

夏希は、もう混乱状態だ。

「ごっ、ごめんなさい!!
昨日はお疲れさまでした!!!
わ、私帰るね!!」

「……お、おい!」




そこからは一瞬だった。
お辞儀をしたままダッシュし、
夏希はなんとか発見したカバンを手に、
佐原の家を後にした。











1LDKの自分の家に帰ってきた。
ノロノロとロフトに上がり、
ベッドに倒れこんだ。


(や、やってしまった~~~~~~!!!!)


絶対に負けたくなかった佐原にめちゃくちゃ甘え、
初めてを捧げてしまった。

酒の力はすごい。
……自分にあんな一面があったなんて
夏希は信じられなかった。






家に帰って反省すること一時間。

夏希はメッセージが彩香から沢山来ていることに気づいた。
ノロノロと携帯電話を開き、
メッセージを見る。



『大丈夫?』
と、可愛い心配しているスタンプが何個も。



『とりあえず生きてる』

とメッセージを送る。

続いて、グダッとなった犬のスタンプ。



すると、既読になるやいなや彩香から着信が。

『モンチ~!!!』

耳に痛い黄色い声。
まだ酒の影響が残っているのか頭がキーンと痛んだ。


『だ、大丈夫だったぁ??なんか面白いことになってたから、
置いて帰っちゃった。
……メンゴ!!』

心配しているのか、からかっているのか……
まあ、両方かなと夏希はぼんやり思う。

「……いやあ……失敗しちゃった……」

元気のない声で言うと、

『モンチ!ま、まさか……』

「……彩香の想像通りよ」




すると、
『きゃあああああああ!!!』

と大きな声が。




「なっ!何なのよ!」

夏希はぼんやりした頭に
彩香の叫び声が響き、
ハッと思考が正常に戻った。

『え、付き合うってこと?
やだ~、モンチの初の彼じゃん~!
ときめきしかない~!』

と、彩香は一気にお花畑だ。



「……いや、全然」

夏希はバシッと断った。

『なんでえぇ~!やることやっちゃったんでしょ?』

「うぐぅ!!



……なんか言おうとしてたけど、走って逃げてきた……」

そう言うと、
『えええー!!なああんで、健脚(けんきゃく)そこで発揮しちゃうのよ~~!!』
と残念そうな声で叫んでいた。


彩香と話しているうちに冷静になってきた夏希は、
「あいつと付き合うなんて、絶対にない!
佐原は私のライバルなんだから!」

と言ってこぶしを振り上げた。

『え~ちゃんと話しなよお~』

あーだこーだいう彩香をなだめ、
夏希は電話を切った。





あー月曜日が来るのが憂鬱だ。