ーーー
次の日の放課後
凛は朝からずっと落ち着かなかった
授業の内容なんてまったく頭に入らない
心臓だけがドクドクとうるさく暴れていた
そして
放課後
昇降口を出たところで
凪がいつものように待っていた
「帰るぞ」
「…うん」
二人並んで歩き出す
でも今日はどうしても我慢できなかった
「…ねえ 凪」
「ん?」
「ちょっとだけ…いい?」
凪は立ち止まる
そしてゆっくりとこちらを見つめた
「…なに?」
一呼吸置いて
凛は恐る恐る口を開いた
「凪って…」
「昔さ この町に住んでた?」
「…」
凪は少しだけ口角を緩めた
「…ああ 住んでたよ」
「じゃあ…」
「駄菓子屋に行ってたのも…」
「ああ」
「…もしかして…」
「私の…幼馴染だった?」
凪は答えない
ただ 少しだけ微笑んだまま
ゆっくりと歩幅を詰めてきた
「やっと気付いたな」
「……っ」
「気付くの遅えよ」
「……なんで今まで…言わなかったの」
「お前が思い出すまで言わねえって決めてた」
「なんで…?」
「その方が面白えじゃん」
「ほんと…意地悪…」
「ずっとお前の近くでこうやって焦らすの 楽しかった」
「でもさ」
凪は静かに手を伸ばして
そっと凛の頬に触れた
「お前さ」
「小さい頃 言ったの覚えてる?」
「え…?」
「『大きくなったらお嫁さんになる』って言ったのお前だぞ」
「…っ」
頭の奥で
あの幼い自分の声が蘇った
『凪くんのお嫁さんになるー!』
「俺は」
「それ ずっと覚えてた」
「……」
「だから お前がここにいるって知って」
「高校もわざわざ選んで来た」
「ずる…」
「ずるいだろ?」
凛はもう何も言えなくなった
目の奥が熱くなる
涙がじわっと滲んで止まらなくなる
「ほんとに…ほんとに最低…」
「知ってる」
「でも…」
「ありがと…」
凪はふっと笑ったまま
そっと凛の涙を親指で拭った
「やっと捕まえた」
「……」
「もう逃げんなよ」
そっと額をくっつけられた瞬間
凛は堪えきれず
静かに泣きながら 小さく頷いた
ーーー



