現実は、恋愛ドラマよりも甘く~恋を知らない俳優と、恋を書けない脚本家~

都内某所のホールで行われた、ドラマの完成披露記者会見。

フラッシュの光とカメラのシャッター音が止まらない。

壇上には、主演俳優・久遠遥真、脚本家・美園飛鳥をはじめとしたメインキャストと制作陣が並んでいた。

豪華な花に囲まれたステージは、どこか祝祭的でありながら、空気には一種の緊張感も漂っていた。

司会が進行を進めるなか、ひとりの記者が手を挙げる。

「久遠さんに質問です。今回のドラマでは、リアルな恋愛感情がにじんでいたと話題です。実際、演じていて“本物の感情”が芽生えた瞬間はありましたか?」

一瞬、空気が張り詰めた。

飛鳥も、隣に座る遥真の横顔をそっと見た。

照明が彼の表情を淡く照らし出す中、遥真はマイクを手に取り、少しだけ口角を上げてから、穏やかに、しかし力強く答えた。

「芽生えた、というより……気づいたら、もう目が離せなくなっていました。演技じゃない感情に、自分でも戸惑うくらいで」

その一言に、会場に静かなどよめきが走った。

関係者席の一部で驚きの息が漏れ、カメラのシャッター音が再び鳴り響く。

飛鳥の胸が、きゅっと縮まった。

照明の熱よりも、視線の圧よりも、彼の“まっすぐ”が心に迫った。

一言に込められた真実は、どんな脚本よりも鋭く、やさしかった。

遥真の視線が、そっと隣の飛鳥に向けられる。

飛鳥はわずかに目を見開き——すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

マイクを取り、やわらかく言葉を継ぐ。

「……あとは、作品をご覧ください」

その一言に、記者たちの手元のペンが止まり、会場に静かな拍手が広がった。

言葉は少なかった。

けれど、すべてが詰まっていた。

説明はいらなかった。

演技の中に宿ったものは、ただのフィクションではなかった。

本物の感情が滲んでいたからこそ、あれほどまでに観る者の心を震わせたのだと、誰もがうすうす感じていた。

飛鳥の胸の奥に、静かに感謝が満ちていく。

言葉にできない感情を、堂々と認めてくれた遥真に、心から感謝していた。

自分では語りきれなかった想いを、彼がたった一言で示してくれた。

“告白”とは、たった一言でも——世界を変える。

そして、その世界は確かにふたりにとっての“これから”へとつながっていた。

会見が終わり、カーテンコールのように立ち上がる拍手に包まれながら、飛鳥はふと、脚本家としてではなく、ひとりの恋人として微笑んでいた。