現実は、恋愛ドラマよりも甘く~恋を知らない俳優と、恋を書けない脚本家~

クランクアップのパーティーが終わった夜。

宴の余韻が残るホテルのバンケットルームでは、スタッフやキャストたちがそれぞれの時間へと散っていった。

笑いながら二次会の店へ向かう者、静かに手を振って帰っていく者——誰もがやりきった表情をしていた。

その中で、遥真はまっすぐに飛鳥へと歩み寄った。

「送ります。こんな夜に一人で帰すなんてできません」

「……ありがとう」

言葉少なに、それでいてどこか自然に。

黒い車に並んで乗り込むと、車内には静かな音楽と、ほのかな香りだけが漂っていた。

誰も言葉を急がなかった。

車窓を流れる街の灯が、ふたりの頬を優しく照らす。

やがて、飛鳥の自宅前に車が止まる。

シートベルトを外しかけたそのとき、飛鳥がふいに言った。

「……もしよかったら、上がっていく?」

遥真の目が少し見開かれ、すぐに穏やかな微笑みに変わる。

「はい。喜んで」

ふたりで歩く短いエントランス。

鍵を開けて、玄関の扉を開いた瞬間、静かな空気が出迎えた。

ただのリビングなのに、妙に新鮮に感じた。

「どうぞ、座ってて。お茶入れるね」

「いえ、ここにいてください」

遥真はそう言って、飛鳥にソファへ座るよう促した。

その距離は、初めて恋愛レッスンしたときよりもずっと近く、けれどどこまでも自然だった。

そして、ほんの数秒の沈黙のあと。

「飛鳥さん……」

低く、でもはっきりとした声で、彼は言った。

「……愛してます。演技じゃなく、本当に」

瞬間、空気が変わった。

飛鳥の胸が、温かさでふくらんでいく。

言葉にならない想いが、胸の奥で脈打っていた。

俯いた目元に、涙がこぼれそうになる。

唇がわずかに震えながら、それでも飛鳥は声を出した。

「……ほんとに、ずるいな」

「はい?」

「こんなふうに言われたら、もう何も言い返せないじゃない……」

そう呟きながらも、飛鳥の頬には、微笑みが浮かんでいた。

静かに、そっと涙が頬を伝った。

その笑顔に、遥真もまた、優しく笑い返す。

「泣かせたくて言ったんじゃないんですよ」

「でも、うれしいの。涙が出るくらい、うれしかったの……」

その言葉に、遥真はそっと彼女の手を取った。

手のひらに伝わる体温が、何よりの答えだった。

ただ隣にいるだけで、言葉以上のものが通じ合っていた。

ふたりの静かな時間が、夜の静寂と溶け合っていく。

壁の時計が小さく音を刻んでいた。

それが、ふたりにとって新しい時を告げる合図のようにも思えた。