大きなトラブルはもとより、小さなトラブルもなく、滞りなく営業が終了した。
店内にほっとしたような空気が流れ、美容師は皆、満足したような笑みを浮かべていた。
夢丘とわたしは労いの言葉をかけながら準備していた花束を一人ずつ渡した。
すると、予期していなかったのだろう、彼女たちは驚きの声を上げ、中には感極まる人までいた。
「今日は本当にありがとうございました」
最後の客となった富士澤の奥様と娘さんに花束を渡した。
実は、当初は最初のお客様として迎え入れる予定だったが、神山不動産本社の保育所を利用できることを知った彼が、「施術を終えたあとに妻をライヴレストランに招待したい」と申し出てきて、変更したのだ。
もちろん、一も二もなく了承した。
それだけでなく、奥さんに対する愛情を感じて、思わず涙ぐみそうになったことを思い出した。
「こちらこそありがとうございました。今日のことは一生忘れません」
大反対されたと聞いていた奥様の笑みを見て、わたしは胸を撫で下ろした。
それは夢丘も同じようで、「また遊びにいらしてくださいね」と笑みを返すと、「主人をよろしくお願いします」と頭を下げられた。
「とんでもないです。お世話になっているのはこちらの方ですから」
夢丘とわたしは慌てて頭を下げ返した。
心の中で「これからもよろしくお願いいたします」と呟きながら。



