『天空の美容室』~あなたに出会って人生が変わった~【野いちごバージョン】


 その夜に見た夢は悲惨なものだった。
 追い詰められていた。
 目の前にはナイフを持った男、後ろは崖だった。
 逃げ場は完全に塞がれていた。
 やられる覚悟で男に向かっていくか、海に身を投げるかしかなかった。

 男がにじり寄ってきた。
 わたしは後ずさった。
 すると、何かが落ちた。
 小石かもしれなかった。
 崖を伝わって落ちたのだろうか、途中から音が消えた。
 もう一歩も下がれそうになかった。

 でも、その時、男が更ににじり寄ってきた。
 もう一刻の猶予もなかった。
 飛びかかるか、身を投げるか、決断を迫られた。
 
 男が更に一歩踏み出した。
 反射的に後ずさりしてしまった。
 その途端、体が揺れた。
 あっ、と思った時には宙に浮いていた。
 ウヮ~、
 両手をばたつかせたが、なんの意味もなかった。
 真っ逆さまに海に落ちると、いきなり口の中に海水が入ってきた。
 息ができなくなった。
 もがくしかなかったが、海面はどんどん遠ざかっていった。

 ワ~!

 叫んだ瞬間、目が覚めた。

 全身に汗をかいていた。
 上半身だけでなく、トランクスもびしょ濡れだった。
 慌てて飛び起きて、すぐに着替えたが、荒い息はなかなか収まらなかった。

 心の重荷が夢になったのだと思った。
 外国人女性客への英語対応と速攻カットへの支援依頼。
 どちらも解はなかった。
 崖っぷちではないにしても、追い詰められたような感じになっていた。

 着替えたばかりだったが、シャワーをすることにした。
 中年臭とは思いたくないが、嫌な臭いがまとわりついていた。
 スッキリ洗い流して、気分を変えることにした。