王子? と俺はかつて聞いたことのある懐かしい言葉を連想した。王子様を愛している、とは国王の息子を愛しているというそのままの意味か、もしくはこの世界も人気アイドルを王子様と呼ぶのか、またはその両方か。
つまりはシノブはその王子様・アイドルの大ファンで……なんだそんなことか実に女の子らしいことだ。あのお堅くて賢いシノブがプライベートだと王子様を推しているとか、年相応に可愛らしいだから俺は安心した。彼氏がいるんだぞと言われなかったことに。
いたっていいが、いない方が良いに決まっている。ごめん嘘ついた、絶対にいない方が良い。だからそのアイドルが彼氏なわけがない。まさかシノブがアイドルの取り巻きとかいう可能性については彼女に限ってそんなことはないだろう。また王子には王妃となるお姫様がいるはずなのだ。シノブは中流的な良家のお嬢様には相当するだろうが、王女になれる上流階級の貴族には見えない。
最悪を考えたらハーレムの一員という可能性はあるじゃなくて無い。あってたまるか。だから無い。しかしスレイヤーのあの言い方からすると王子ガチ勢かもしれない。下手したら王子に恋焦がれる想いゆえに嫁に行くのを拒絶するぐらいのレベルとか。それはちょっと……いいや違うな、むしろ、良い! 届かぬ花に縛り付けられている方が、良い。だって確実にシノブは王子と結ばれることはないのだ。ある意味で俺と王子は対極にいながら同じところにいる存在かもしれない。
王子でないなら誰でもいいとか思ってくれるかもしれない。そして俺と結ばれたら現実を優先して俺のことを愛してくれるかもしれない。もしもそうならどれだけいいか。まぁ本音を言うと嫌だよ。好きな女がアイドル好きとか。よその男に懸想しているとか。でもそんなことは言えない。言えるはずがない。心の狭い男と思われたくない。狭いからこそ広いと思われたいんだよ。広かったらそんなこと気にしないんだからさ! 結婚したからアイドル推しは卒業するんだよと言いたいが、言ったら最後な感がある。
だから俺は堪える。仕方がないそれが男だ。それぐらい受け止めてやるからなシノブ! なんたって俺は他のつまらない男とちがって寛容だからな。高速回転し続けた思考を止めた俺は鼻で笑った。
「くだらない。だからどうした! それが事実だとしても俺がその愛で上回ればいいだけのことぉおおおお!」
俺は腰を低くしてスレイヤーに向かった。タックルの構えである! スレイヤーは捕えられてはまずいとその場で跳んで避けようとすると傍らの布団が跳ね起きシノブが大声を出した!
「アカイ、跪いて!」
命じられるがまま俺はタックルの体勢から床へうつ伏せになりながら滑るとカオルとスレイヤーはシノブの方を向く。反射的に向いてしまった。
「喰らってちょうだい!」
シノブが投げた二つの爆弾はスレイヤーとカオルの顔に命中し弾けて粉末塗れとなった。
「こっこれは!」
「わっまずいわよこれ。シノブちゃんのこれってまさか、あっやばい身体が……」
「痺れと眠り薬配合よ。アカイはそのまま伏せって呼吸を最小限にして」
「なんとまぁ……」
スレイヤーは座り込みながら横たわった。眠っていないようだから痺れているのだろうカオルは眠りに抗おうとしているが最早睡眠時の態勢となっている。まさに時間の問題ということだ。
「よしアカイ立って! いまのうちにこの旅館から脱出するわよ」
「待て、シノブ……これ以上アカイをだまくらかすんじゃない」
意識朦朧なスレイヤーの叱責に対しシノブは怯んだので代わりに俺が返した。
「俺は少しばかりも騙されてなんていやしないぜスレイヤー!」
「そっそうよ、その通りよ」
堂々たる物言いの隣には細い声で揺れるシノブの声にスレイヤーは嘆息する。
「こんなに分かりやすいのになぜ気づかないのだ……」
俺達二人は部屋を後にし荷物と共に宿の外に出た。
「あった! あれがきっと兄さんが乗ってきた馬車よ。借りましょ」
これは盗みになるよなと小心者であり常識人な俺はちょっと思うも、すぐにそれを振り払った。奴は俺から嫁を盗もうとしている。盗人から盗んで何が悪い! あとついでに家族間では盗難は発生しない。何故なら共有財産だからだ! そんなこんなの勝手な理屈をつけて俺達は馬車を駆けださせた。
「もうこうなっちゃたらこの馬車で行けるところまで行きましょう。兄さんたちに追いつかれたらまた面倒なことになるし」
ふふっ怯えやがってとアカイは弱気なシノブに優越感を覚えながら励ましの言葉を送った。
「大丈夫さシノブ。俺がいる限りは君を危険な目に合わせたりなんてしないぜ」
かっこいいなぁと俺は自分に酔いながら言った。我の作った酒は良く酔えるものだ。さぁシノブ。君も俺に酔いしれたもれ……と調子よく俺が思っているその隣のシノブは手綱から手を離さず、また視線を前から離さずに言った。
「……カオリさんの罠にドハマりしていた癖によく言うよ」
つまりはシノブはその王子様・アイドルの大ファンで……なんだそんなことか実に女の子らしいことだ。あのお堅くて賢いシノブがプライベートだと王子様を推しているとか、年相応に可愛らしいだから俺は安心した。彼氏がいるんだぞと言われなかったことに。
いたっていいが、いない方が良いに決まっている。ごめん嘘ついた、絶対にいない方が良い。だからそのアイドルが彼氏なわけがない。まさかシノブがアイドルの取り巻きとかいう可能性については彼女に限ってそんなことはないだろう。また王子には王妃となるお姫様がいるはずなのだ。シノブは中流的な良家のお嬢様には相当するだろうが、王女になれる上流階級の貴族には見えない。
最悪を考えたらハーレムの一員という可能性はあるじゃなくて無い。あってたまるか。だから無い。しかしスレイヤーのあの言い方からすると王子ガチ勢かもしれない。下手したら王子に恋焦がれる想いゆえに嫁に行くのを拒絶するぐらいのレベルとか。それはちょっと……いいや違うな、むしろ、良い! 届かぬ花に縛り付けられている方が、良い。だって確実にシノブは王子と結ばれることはないのだ。ある意味で俺と王子は対極にいながら同じところにいる存在かもしれない。
王子でないなら誰でもいいとか思ってくれるかもしれない。そして俺と結ばれたら現実を優先して俺のことを愛してくれるかもしれない。もしもそうならどれだけいいか。まぁ本音を言うと嫌だよ。好きな女がアイドル好きとか。よその男に懸想しているとか。でもそんなことは言えない。言えるはずがない。心の狭い男と思われたくない。狭いからこそ広いと思われたいんだよ。広かったらそんなこと気にしないんだからさ! 結婚したからアイドル推しは卒業するんだよと言いたいが、言ったら最後な感がある。
だから俺は堪える。仕方がないそれが男だ。それぐらい受け止めてやるからなシノブ! なんたって俺は他のつまらない男とちがって寛容だからな。高速回転し続けた思考を止めた俺は鼻で笑った。
「くだらない。だからどうした! それが事実だとしても俺がその愛で上回ればいいだけのことぉおおおお!」
俺は腰を低くしてスレイヤーに向かった。タックルの構えである! スレイヤーは捕えられてはまずいとその場で跳んで避けようとすると傍らの布団が跳ね起きシノブが大声を出した!
「アカイ、跪いて!」
命じられるがまま俺はタックルの体勢から床へうつ伏せになりながら滑るとカオルとスレイヤーはシノブの方を向く。反射的に向いてしまった。
「喰らってちょうだい!」
シノブが投げた二つの爆弾はスレイヤーとカオルの顔に命中し弾けて粉末塗れとなった。
「こっこれは!」
「わっまずいわよこれ。シノブちゃんのこれってまさか、あっやばい身体が……」
「痺れと眠り薬配合よ。アカイはそのまま伏せって呼吸を最小限にして」
「なんとまぁ……」
スレイヤーは座り込みながら横たわった。眠っていないようだから痺れているのだろうカオルは眠りに抗おうとしているが最早睡眠時の態勢となっている。まさに時間の問題ということだ。
「よしアカイ立って! いまのうちにこの旅館から脱出するわよ」
「待て、シノブ……これ以上アカイをだまくらかすんじゃない」
意識朦朧なスレイヤーの叱責に対しシノブは怯んだので代わりに俺が返した。
「俺は少しばかりも騙されてなんていやしないぜスレイヤー!」
「そっそうよ、その通りよ」
堂々たる物言いの隣には細い声で揺れるシノブの声にスレイヤーは嘆息する。
「こんなに分かりやすいのになぜ気づかないのだ……」
俺達二人は部屋を後にし荷物と共に宿の外に出た。
「あった! あれがきっと兄さんが乗ってきた馬車よ。借りましょ」
これは盗みになるよなと小心者であり常識人な俺はちょっと思うも、すぐにそれを振り払った。奴は俺から嫁を盗もうとしている。盗人から盗んで何が悪い! あとついでに家族間では盗難は発生しない。何故なら共有財産だからだ! そんなこんなの勝手な理屈をつけて俺達は馬車を駆けださせた。
「もうこうなっちゃたらこの馬車で行けるところまで行きましょう。兄さんたちに追いつかれたらまた面倒なことになるし」
ふふっ怯えやがってとアカイは弱気なシノブに優越感を覚えながら励ましの言葉を送った。
「大丈夫さシノブ。俺がいる限りは君を危険な目に合わせたりなんてしないぜ」
かっこいいなぁと俺は自分に酔いながら言った。我の作った酒は良く酔えるものだ。さぁシノブ。君も俺に酔いしれたもれ……と調子よく俺が思っているその隣のシノブは手綱から手を離さず、また視線を前から離さずに言った。
「……カオリさんの罠にドハマりしていた癖によく言うよ」


