わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

「私はあの婚約を許さない」

 部屋の中で一人、女は角隠しを脱ぎ捨て叫んだ。

「あの御方は騙されている」

 女は振袖を脱ぎながら自らの言葉に頷く。

「そうでなければこの私を選ばないはずがない」

 裸となった女は両手をあげ天井を見上げながら宣言する

「私こそが妃となる女だ」

 掲げられた両の拳は強く握られその掌は確信をも掴んでいた。

 そしてもうそれを手離しはしない。

「あの性悪女はあの御方に妖術を掛けたに違いない。外道めが!」

 下着をつけながら女は吐き捨てる。

「そうでなければなあの女が選ばれるはずがない」

 下着と素肌の上に帷子を重ねながら言う。

「私があんな女に負けるはずがない」

 女は夜と同じの闇色の衣装に身を纏う。

「ああ哀れな貴方様……どうかお待ちください」

 口紅を手に取った女は唇に朱を走らせた後、口当てでそれを隠した。

「貴方様をお救い致します」

 決心しながら女は窓へ向かって駆けだしそのまま跳び、窓の外に広がる夜へと飛び込む。

「私があの化け物を退治する」

 女は忍者であった。