『俺の婚約者になってくれないか』
「.....はい?」
......ん?幻聴?
「ごめん、もう1回言ってもらっても―」
「だから、俺の.....婚約者に」
「こ、ここ、婚約者ーーー!?」
「っおい、声がでかい.....!聞こえるだろ.....」
へ?何これ、夢?
そうだ、夢だ。現実でこんなこと起きる訳がない。
「こ、婚約者とは.....」
意味を聞いているわけじゃない。
何をするのかと、何で私なのかを聞いたんだ。
「お前しかいないから」
.....ん?
「俺、親父に明日までに婚約者を連れてこいって言われてんだよ.....でも、俺の正体を知ってるのはこの学校でお前しかいないから」
こ、婚約者を連れてこいだなんて、そんな少女漫画みたいな.....
もしかして、相当お金持ちなのかな.....??
「お願いだ、俺の婚約者になってくれ」
も、もう状況についていけない.....
「じゃないと、俺もう活動できないかも」
「.....え?」
活動が、できない.....?
「歌い手としてやっていけない」
「そ、そんな.....」
.....なんて厳しいんだ。
「で、でも.....本当にわ、私じゃないとダメなの?その、マネージャーさんとか.....」
「うちのマネージャーは男しかいないから無理だ。というか、女だとしても父親に許されない」
「えっ」
マネージャーが男しかいないと聞いて、ちょっと嬉しくなってしまった。
「じゃ、じゃあ私が婚約者になった方が良いってこと?」
「ああ。さっきから.....そう言ってるだろ」
私なんてレンくんに釣り合わないのに、婚約者なんて.....
いくら夢だとしても。
「わ、分かった。婚約者に、なる.....」
なんか、いろいろ可哀想だし.....
っていうか、ファンだったら本当は喜ぶ場面だよね。
でも、喜ぶどころかもう頭が真っ白.....
「......ほんとか?......感謝してもしきれない」
いや、それはこっちのセリフですけど。
こんな推しと普通に話せるときが来るなんて思ってもいなかったし......まじで今もたまに、夢?ってなるもん。
「一応、連絡先交換します.....?」
「ああ」
レンくんはそう返事をして、ポケットからスマホを取りだした。
いや、普通に考えてこれやばいよ。
だって推しの婚約者になった上に連絡先も交換するんだよ?
もう頭がパンクしそう.....
連絡先を交換し終えた時。
「さっそくだが.....明後日は鳳会に来てもらう」
お、おおとりかい.....?
「俺の実家でやる」
「え?」
「お前は、とりあえず挨拶をしてくれれば良い。あとは......出来れば和装にしてくれ」
「お、お、推しの家に行くだと.....!?やっ、やっぱりこれは夢なのか......?」
つい独り言が出てしまったが、どうやらレンくんには聞こえてなかったようだ。
か、確実にこれは夢だ......
そう思い、頬をつねったがとても痛かった。
ゆ、夢じゃない......


