もっとしっかり、目に焼き付けたい。
自転車から降りて押しながら、ゆっくりと良い眺めのポイントを探す。
こうして何の邪念もなく、単純に美しい景色だと感動できたのは、何年ぶりだろうか。
賛同できない利己的な意見にのまれて、心を動かされることはなかった。
今この景色を綺麗だと思えているのは、現実から逃げてきたからだろうか。
一日だけ。
そう決めて、後ろめたさも捨てて、行き先を決めずにやってきた。
私もあの工場が放つ光みたいに、純粋にただ光るだけで綺麗だと、誰かの心を動かしてみたい。
自分が一番綺麗だと思うポイントを見つけると、柵に自転車を寄り掛からせた後、背伸びをして足首をその場でぐりぐりと地面に押し付けた。
三、四時間ほど自転車を漕ぎ続けたせいで、背中はバキバキで足は攣りそう。
背伸びを開放すると同時に深呼吸して体の力を抜くと、また目の前の景色に心を奪われた。
本当に綺麗だ。
夜中だから人も居ないし、この景色を独り占めなんて、贅沢。



