名前も知らない貴方とだから恋に落ちたい






「もう大丈夫です。ありがとう」




そう?とすぐに手が離れて、背中から温かみが消えた。



このままを選んだのは私だけど、何の名残もなく離れたから、温かみが消えるどころか、触れられていたところが冷たく感じる。




やっぱり寂しいなと気持ちを落とすと、好青年がモゴモゴと言い出して席を立ち、私が座る車輪止めの方に座ってきた。



急に近くなる距離に、心臓はバクバクで声が出ない。





「自販機でコーヒー買った時」


「…?」


「寂しかったって言ってたけど」


「…はい」


「俺も、同じ気持ちだった」





心臓が止まりそうになって、固まったまま好青年をゆっくり見つめた。



ここに来ても会えなくて、夜景を見ても綺麗だと思えず、心が動かなかった。


その気持ちと同じだと?





「同じ、気持ちっていうのは…」


「…抱きしめても、良いかな」




急展開すぎて付いていけてないけど、好青年の言葉に頷いて、すぐに柔軟剤の香りにふわっと包まれた。





「一回しか会ってないのに寂しかったなんて、変ですかね?」


「どうですかね。でも、私も同じこと思ってました」


「じゃあ、変な人同士ってことで」


「そうですね(笑)」




ようやく硬直が解けて、抱きしめあったまま力を抜いて二人で笑った。




このままで良かったんだ。


何も言わなくて、良かった。