"着いたよ〜!次は港町の市場!
お土産も買えるし自由行動~!"
活気ある港町に降り立つと
海産物や土産物の店が軒を連ねていて
人の波が広がっていた
えれなの手を握ったまま
少し人混みから外れて市場をゆっくり歩く
「いい匂いするな 焼きイカ?ホタテ?腹減ってきた」
そんなことを言いながら歩いてた時
ふいに背後から呼び止められた
「アオくん?」
一瞬だけ足が止まる
振り返ると.女が立ってた
けどその距離感は、他人じゃねぇってすぐにわかった
「あれ、本当に...
アオくんだよね?久しぶり!」
懐かしむように笑うその顔
息を小さく吐いて答えた
まじかよ
ここで会うとは思わなかった
少しだけえれなの横の空気が張るのが伝わってきた
そいつはえれなにも気づいて、えれなに向かって会釈する
「あ、ごめんね!急に声かけちゃって
わたし、アオくんの高校の頃の友達っていうか
...元カノ だったの」
俺は視線逸らさず短く言い切った
「...ああ、そう 元カノだよ」
そいつは気まずそうに笑って
「元気そうで良かった!
あ、ごめんね!観光楽しんで」
そう残して通りの向こうに消えてった
静かになった市場の片隅
ゆっくりえれなの顔を覗き込む
「怒っていいよ
言ってなかったのは俺の落ち度だから」
視線を落としながら続ける
「でも今、隣にいるのは“お前だけ”ってこと
それだけは信じてほしい」
「はは、そなんだ!いちいち言わなくたっていいよ」
えれなは笑って返してくれたけど
そのあと少し口調が変わる
「でもあの子はいちいち言いすぎ...
わざわざ“元カノです”なんて言う子いないから」
その言葉に、俺は顔から一瞬だけ笑みが消える
「...それ、ほんとだよな わざわざ言いにきた感じだった」
握ってたえれなの手をしっかりと強めに握り直した
でも俺は
お前が言わないふりしてくれてもわかってる
髪に指を滑らせながら小声で囁く
「俺にとって過去はただの記憶
お前は今で、これからで、俺の全部」
一歩前に出て腰に手を回し、真っ直ぐ目を見つめる
「だから
不安になった時はちゃんとぶつけてこい
曖昧にすんの一番嫌なんだろ?」
「ん!
曖昧にされんのすっご〜〜く!やだ!」
えれなは拗ねた顔をわざと見せてくると
くるっと背中を向けて先に歩き出した
「あーあ、お腹空いてきた なんかたーべよーっと!」
俺は小さく息を吐いて笑う
「...わかりやす」
数歩遅れて後ろから追いかける
「おい待てって
そんな空腹アピールしてんの、お前くらいだぞ?」
手首を軽く掴んで、少し前に出る
「まあ機嫌直すには...
うまいもんが一番だよな」
市場の行列を指差す
「ほら あそこの海鮮串、今日イチの行列だってよ」
「...わたしの分も買ってきてよー?」
わざと甘えてきやがる
「わかってるよ
その代わりあとでちゃんと“好き”って言わせるからな?」
「はー?今1番それ言わないといけないのは
アオの方だからね!ばーか」
思わずふっと笑いながら
俺らは市場を後にした
ーー
市場の喧騒から少し離れた木陰のベンチ
2人で並んで串を食べながら波音を聞く
「...なんか今日色々あったけどさ」
えれなの手を握りながら呟く
「お前が隣にいるだけで全部
思い出になってく感じするんだよな」
肩を寄せて額にキスを落とす
「ありがとな
ちゃんとお前がいてくれてよかった」
本音が自然と漏れてた
ーー
夕方、移動した先は屋台街
“わ〜!めっちゃ雰囲気いい〜!”
“金魚すくいある!たこ焼きもー!”
提灯の明かりの下で、えれなの横顔をじっと見つめる
「こういうとこ似合うよな お前」
自然と手を繋いで指を絡める
「えっ?似合うかな?」
首を傾げるえれな
「浴衣だったらもっとお祭り気分味わえたんだけどなー
ね、アオ!来年の夏は一緒に花火大会行こうね!!」
その目がキラキラしてて、つい口元が緩む
...来年の約束早ぇだろ
でも
「あぁ..今からしとくか」
そっと手を繋ぎ
俺たちは歩き出す
「どこ攻める?たこ焼き?チョコバナナ?
金魚すくいで勝負するか?」
「チョコバナナと綿菓子食べたい!」
「 食いもんまで可愛いもんばっかりかよ」
屋台の前で注文して
チョコバナナと綿菓子の袋を受け取る
「はい、世界一可愛いわがまま娘のご要望どおり」
持ってたチョコバナナと綿菓子を渡し
お前を見る
「んっ?食べたいの?」
えれながチョコバナナを差し出してくる
「…これ他のやつにやってたらぶっ飛ばしてたからな」
そのままえれなの手元から食べて目を細めた
「思ったより甘いな」
綿菓子を持ち直して次を促す
「次はゲームな。勝ったら“ご褒美”な?」
射的を指差していたずらに笑う
「俺に勝てんの?
ハンデやろうか」
「え?ハンデは絶対いるよー
だってアオぜったい上手だもん〜」
不貞腐れてるえれなの肩を軽く叩く
「...可愛すぎだろ」
射的台でエアガンを構える
「見てろよ 絶対俺が勝つから」
パンッ パンッ パンッ
3発とも命中させてえれなを見つめる
「はい、次」
「...っ!
アオ絶対勝ち譲る気なかったでしょ!?」
拗ねながらエアガンを構えたえれなに近づく
ったく
かわいすぎて集中できねえ
背後から腰に手を添え、耳元で囁く
「俺が触ってる間に当てたら奇跡だな」
耳ギリギリの距離
「いいか?ここ持って...狙ってゆっくり...引け」
パンッ
的が倒れる
「え?...え?見た?ねぇ!!アオ今の見てた?」
袖を引っ張ってはしゃぐえれなに笑みが零れる
「...やべぇ。可愛すぎて悔しいどころか嬉しいわ」
手を取って引き寄せ、額にキス
「ナイスショット」
「お前にだけはほんと敵わねぇわ」
ーー
金魚すくいのあと、2人並んで石段に腰を下ろした
提灯と月が優しく照らしてくる
えれなの手を膝に乗せ、指先をなぞりながら呟く
「今日、マジで楽しかった
...でもこの静かな時間がいちばん好きかもしれねぇ」
耳元へ近づけて囁く
「誰もいなくて
お前と並んで黙ってられる時間が一番落ち着く」
髪にキスを落とし
「...来年の花火、マジで約束な」
月を見上げたまま、えれなの手を強く握る
また絶対連れてくる
今日の思い出超える夜にしてやるから



