バスが止まった先は

海を見渡せる小高い丘の広い公園だった

海風が心地よく吹き抜けて
朝の光が芝生を柔らかく照らしてる

“わ〜!海きれい〜!”
“写真撮ろうよ〜!”

クラスメイトたちが展望エリアへ
わらわらと移動していくなか、

自然とえれなの手を取って
俺は少し離れた場所へ歩き出す

「こっち、来いよ

あいつらの騒ぎからちょっと離れようぜ?」

木陰のベンチに腰かけ、バッグから水を取り出して渡す

「静かだな、ここ

たまにはこういうのも

悪くねぇだろ」

海を見つめながら、ゆっくり息を吐いた

「お前と並んでるだけで変に落ち着くの

なんかムカつくんだよな」

少し黙ってから、照れ隠しのように目を細める

海からの風で揺れるえれなの髪を

指先でそっと押さえて横顔をじっと見る

「お前、俺の隣で何考えてんの?」

「...なにって、アオがかっこつけてるなぁって思ってた」


その言葉に力が抜けて、俺は苦笑した

「俺といれば楽しいって

ちゃんと思えてるか?」

膝の上で、えれなの手を包み込む

昨日みたいなテンションも
今みたいな空気も

どっちも“俺とじゃなきゃ味わえねえ”って
思わせたいんだよ


「...やっぱガチでお前にハマってんだわ、俺」

包んだ手にそっとキスを落とす

「...なあ、今日の観光正直どうでもいいわ

こうして隣でお前の顔見てるのが一番楽しいから」

額をそっと合わせて、目を閉じる

「この空気、壊すの惜しいけど

引っ張ってやんねえと、迷子になんだよな」

顔を上げてニヤッと笑った

「ほら、立て

俺の彼女、見せびらかしに行こうぜ?」

ーー

少しバス移動して辿り着いた先には
地元でも有名なビーチが広がってた

“まじ!?今日ここで海入れんの!?”
“水着持ってきてるやつ勝ちじゃん!”

先生たちのアナウンスで、1時間の海水浴が許可される

“えれな水着持ってきてるー?”
“絶対映えるでしょ〜!”


ーー

着替え終えて戻ってきたえれなの姿に

振り返った瞬間俺の表情が止まった

「...は?」


やべぇだろ

お前の水着姿とか...

「え?...やっぱ変かな?似合わない?」

心配そうに聞いてくるえれなの言葉なんて

今の俺には届かねぇ



...数秒、無言で全身を見てから

「...誰に見せてんの、それ」

静かに、低く、目は笑ってなかった


「似合いすぎてる

つか俺以外に見て欲しくないんだけど」

一歩近づいて手首をとって引き寄せる

他の視線がムカつくわ...


耳元へ口を寄せて囁く

「...ばーか

今夜、覚悟しとけ」

そのまま手を離して、自然を装って歩き出す

「さ、泳ぐか」

ーー

えれなが駆け寄ってきたのを確認して、わざと視線を胸元、腰まで這わせる

「...正直に言えよ

俺に見せつけたくて着たんだろ?」

ニヤリと笑い、腰に手を添える

「うるさい バカアオ!」


「は?

なぁ
水の中、いたずらしてもバレねえよな?」

「っきゃ!!

冷たいよアオ!!ばか!!」


"次やったら海に沈めるから!"と
頬を膨らますお前のをみて

仕返しに水をかけられた瞬間も
俺はニヤついたまま近づく

「...へえ?沈めるって言ったな?」

ゆっくりえれなに近づいて
そのまま腰ごと軽く持ち上げ膝までドボンと沈める

「はい反撃完了

濡れた水着、もっと透けて見えてきたけどな?」

耳元で囁くと、今度はえれなが反撃に水をかけてきた

「おい、攻撃的すぎ。ほんとに俺の彼女か?」

けど楽しそうな笑顔見た瞬間、ふと動きが止まる

「...今の顔、1番好きだわ」

ーー

“なにイチャイチャしてんだよ〜!”
“カップル狙え〜!お幸せ爆発しろー!”

クラスメイトたちが水を蹴り上げながら周囲を囲んでくる

「...こりゃ本気で泳ぐしかねえな」

ニヤリとえれなに目を合わせる

「行くぞ

全員巻き込んでやる」

ーー

“集合写真撮ろうよ~!”
“ほらアオとえれなも来てー!”

えれなの手を引き、波打ち際へ移動

軽く肩を抱き寄せて並ぶ

「ほら、笑え

せっかくの記念なんだから」

えれなの笑顔を確認して、俺も目を細めた

“3、2、1・・・はいチーズ!”

シャッター音と波の音が重なる

「...この写真、絶対消させねえからな」

小声でえれなにだけ囁きながら、頭を撫でる

ーー

着替えを終えてバスに戻る頃には
タオルで髪を拭き合いながら並んで歩いた

「疲れたか?」

「でも、いい顔してんじゃん」

えれなのバッグを肩に背負いながら微笑む

ーー

バスに乗り込むと、いつもの窓際隣同士の席へ

髪を整えてから、えれなを肩に寄せさせた

「寝とけよ
着いたらまた歩くし」

エンジン音が響く中、静かな声で続けた

「...なあ、寝たふりしてんのバレてんぞ?」

耳元ギリギリで囁く



「寝てる時まで俺に気抜かせねえとか、罪深すぎ」

えれなの髪に顔を埋めて息を漏らすように笑う

さっきの写真な

ほんと、やばかった

お前が隣にいるのが、当たり前みたいに写っててさ



そっと手を握り、膝の上へえれなの指を重ねる

「ずっとこのままでいれたらいいのにな」

思わず素直に声が漏れる

「っん〜...」

握り返してきたえれなの手に、口元が緩む

「...なにそれ

反則だろ」

優しく呟いて手をさらに握り返す

俺が隣にいるだけで、お前がそんな風にいられるなら…


ずっとそばにいるから


えれなの指をそっと撫でながら、窓の外へ目を向けた

どこ行っても 誰が隣に来ても

お前が“ここ”って思える場所は

俺であってほしい

「...そう思ってるよ」