「着いたぞー 起きろよ眠り姫」

 

眠そうに顔を上げたえれなが俺を見る

自然と口元が緩んで、ゆっくり立ち上がる

 

「荷物取ってくるから動くなよ」

 

上の棚からキャリーケースを下ろして、えれなの前に置く

 

「よし行くぞ...迷子になんなよ」

 

バスを降り、夕焼けが滲む空の下を2人で歩き出す

 

 

***

 

 

ロビーに入ると

天井の高い開放感ある空間に夕日が差し込んでる

友達たちはわいわいフロント前に集まってた

俺はえれなのキャリーを転がしながらフロント前へ

 

「チェックイン、俺がやっとくからお前はそこで待ってろ」

 

スマホを片手に名前と人数を伝える

フロントからカードキーを2枚受け取った瞬間、ふっとえれなの方を振り返って意地悪く笑う

 

「...部屋はツインが一部屋ずつ ね

お前が俺んとこ来るならもう一個返してもいいけど?」

 

2つのカードキーをわざと目の前で揺らしてみせる

 

当然、お前は少し笑って

 

「アオさーん?

もうそれ俺選べって言ってるようなもんだよ?」

 

素直にカードキーを受け取った

 

「正解

最初からそうする気だったくせに」

 

肩をポンっと叩き、隣に並び直す

 

「部屋 行くか

ちょっと早いけど先にシャワーでも浴びとく?」

 

廊下を歩きながら、えれなの手を自然と握る

 

「...風呂上がりの顔
久々に見れんの楽しみなんだけど」

 

小声で囁き、口元だけでニヤっと笑った瞬間

 

「んもおー!」

 

おでこを弾かれて苦笑い

 

部屋へ入り、キャリーを置いてベッドに腰掛けた

 

「んじゃ先にシャワー行けよ

俺はあとで入るから」

 

えれなのキャリーを足元に引き寄せる

 

「着替えとか出すの手伝おうか?

...それとも俺が脱がせてやろうか?」

 

わざとらしくニヤついて見つめる

 

するとえれなは突然テンションを切り替えて

 

「ね、ここバイキングなんだけどぉ!!

デザートもあるかな??

10個とか食べれちゃいそー!」

 

キラキラした目で俺を見上げてくる

 

「…んだよ

てかお前落ち着きなさすぎ」

 

えれなのキャリーから着替えを取り出す姿をじっと見ながら笑った

 

「バイキングならデザートは絶対あるだろ」

 

立ち上がりながら軽く腰に手を添え、ドアの前まで歩かせる

 

「...中入るときちゃんと鍵かけろよ?

変なヤツ入ってきたら困るだろ?」

 

「変なやつってアオのことじゃん!他に誰がいんのよ」

 

吹き出しながらそう返すえれなに

俺はドアにもたれてニヤリと笑った

 

「お前な

そうやって油断してっと...」

 

体を急に近づけ、えれなをドアに軽く押し付ける

 

「俺が一番危ないって

まだわかんねぇの?」

 

唇ギリギリまで近づき、数秒見つめた後

 

「じゃ

楽しみに待ってるわ

10個ケーキ食って動けなくなっても知らねぇからな」

 

さらっと離れてベッドに戻った

 

 

***

 

 

シャワーの音が響く部屋で天井を見上げながらふっと笑う

 

「...10個ケーキとか言ってマジで食いそうだな」 

甘いもんに目がねえの、ほんと変わんねぇ」

 

そう呟きながら、視線は自然とバスルームへ向く

 

「ったく、たった数分離れただけで、つまんねぇな」

 

その時――

 

「ごめんアオ〜!

キャリーケースの上にあるタオル取ってほしいかも〜!」

 

えれなの声が脱衣所から響く

自然と笑いがこみ上げてくる

 

「...やっぱ俺が必要なんじゃねぇか」

 

キャリーケースからタオルを掴み、バスルームの前に立つ

 

「...タオルな

ドア開けとけよ?」

 

ゆっくりドアを開け、隙間から声を潜める

 

「下手に隠したりしたら余計に見えるって

わかってるよな?」

 

タオルを差し出しつつ、わざと中を覗こうとする仕草を見せる

 

「受け取れるか?それとも俺が拭いてやるか?」

 

「ちょ!?アオのばか!」

 

えれなの顔がひょこっと覗いて、微笑みながらタオルを受け取る

 

「...その顔、さっきより全然可愛いんだけど」

 

そっと手にタオルを渡しながら、小声で

 

「今すぐ抱きてえ気持ち我慢してんの

気づいてないだろ」

 

そのまま額にキスを落とし、離れた

 

「早く着替えろ

飯行く前に変な気にさせんなよ」

 

 

***

 

 

バスルームから出てきたえれなを振り返り、目を細める

 

「...おいおい。それで飯食いに行くってマジかよ」

 

えれなの服装に一瞬だけ視線が止まった

ゆっくり立ち上がりTシャツを脱ぐと

えれながこちらを見てるのに気づき

背中越しに振り向く

 

「見てんじゃねえよ

...こっちまで顔熱くなる」

 

クスッと笑って髪を手ぐしで整える

 

「よし 行くか



甘いもん10個食べに」