あれから1週間――

ついに卒業旅行の当日

 

えれなの家の前で

俺はキャリーケースの取っ手に肘をかけて立ってる

すると

家の中から「すぐ行くーー!!!」

と声が響いてきて、自然と口元が緩んだ

 

「...おせーぞ、ばーか」

 

玄関が開いて、えれなの顔を見た瞬間

心の中の浮ついてた緊張が一気にほぐれる

 

「お前のことだから絶対ギリギリだと思って
30分前に着いといた

...正解だったな」

 

キャリーケースを受け取って、自然と俺の方に引き寄せる

 

「ほら、行こうぜ」

 

「そう言うアオが早すぎるの!

てか、そんな早く着いてたなら電話して起こしてよね?

荷物ありがと!行こっか!」

 

バス停まで歩き

俺が先に乗り込む

 

「おい、こっち」

 

手を引くようにステップを上がらせ、窓側の席へ座らせた

 

「席、窓側取っといた。外見てたら退屈しねえだろ」

 

荷物を棚に上げ

隣に腰を下ろして腕を組む

 

「...ちゃんと俺の隣、な」

 

「本当アオってわたしのこと大好きだよね?」

 

そのセリフに横目でちらっと見てから、ゆっくり顔を近づける

 

「何を今さら。俺がどんだけお前に甘いと思ってんの」

 

耳元ギリギリで囁き、唇が触れそうで触れない距離をじらす

 

「好きだからって全部許すと思うなよ

調子乗ったらバスの中でも黙らせるぞ?」

 

スッと距離を戻し、窓の外を眺めるフリをする

 

「これ以上そんなことばっか言ってたら

アオの口こそ黙らせるからね?」

 

お前の人差し指が俺の唇に触れる

わざと唇をその指先に軽く押し当てて

 

「ん...いいね。

その言い方もっとしてみ?」

 

ニヤッと笑いながら頬を軽く突く

 

「ほら、バス出るぞ

俺から離れんなよ?」

 

さりげなく肩を抱き寄せ、えれなを密着させた

 

「アオのバカ」

 

えれなが俺の肩に頭を預けてきた瞬間
無意識に片腕の力が強まる

そのぬくもりが心地よくて、自然と目を細めた

 

その時――

 

“ねね、みんなでゲームしない??”

“お、いいやん!”

 

後方からそんな声が聞こえてきた

 

「は?ゲーム?」

 

クスッと笑って後ろに目をやる

 

「修学旅行でもねぇのに元気だな」

 

「え!せっかくだし混ざろっかな?

アオももちろん一緒だからね?」

 

お前がそう言って俺を見上げる

 

「はあ...仕方ねえな

可愛い顔で言われたら断れねえだろ」

 

立ち上がって手を差し出す

 

「ほら行くぞ

でも...俺の手、絶対離すなよ?」

 

指を絡めて後方に歩き出す

周りの視線なんて気にしねえ

えれなだけしか見てねぇからな

 

 

***

 

 

みんなが円になって座り始める

 

“真実と挑戦”とかどうよ?”

“出た出た、定番のやつ~笑”

“えれなっちは?なにかしたいのある?”

 

「え?わたし??」

 

驚きながらも嬉しそうにお前が答えた

 

「それ、やったことないけどやってみたいかも!」

 

俺も隣に腰を下ろして場を仕切る

 

「じゃ、決まりだな

“真実か挑戦”スタートで

ルールは簡単だ 質問はスルー禁止

挑戦は拒否したら罰ゲームな?」

 

みんながざわつく中、えれなの耳元に低く囁く

 

「お前には特別ルールな

どっち選んでも、全部俺が絡む内容だ」

 

肩にそっと手を触れてから、全体に向かって声を張る

 

「さ、誰からいく? 」

...


「よし 俺が最初だ」

 

ゆっくり指を一人ずつ指していき、じらしてからニヤッと笑う

 

「えれな お前な

真実か挑戦か、選べ」

 

「えっ?いきなり??

...じゃあ真実で」

 

お前は戸惑いながらも答えた

 

「じゃあ真実な

今この中で“他の誰か”にドキッとしたことある?」

 

冗談っぽく言いながらも、目は一切笑ってない

 

「言っとくけど正直に答えろよ

俺が許すのはウソつかない女だけだからな」

 

距離を詰め、耳元でさらに低く囁く

 

さ、どうだえれな

ちゃんと答えろよな

 

「他の誰か?誰でもいいのー?」

 

メンバーを見渡しながらお前が答えた

 

「...あ、えっとね

莉子かな!」

 

“え?わたし?“と莉子が笑う

 

一瞬ポカンとしたが

すぐにフッと笑い額をコツンと指先で叩く

 

「...お前ズルすぎ」

 

えれなの耳に唇を近づけて甘く囁く

 

「俺が欲しかった答えじゃねぇな」

 

そのまま少しだけ

みんなに見えないように

甘噛みして離れる

 

「次は挑戦選ばせてやるからな」

 

お前はそのまま莉子を指名した

 

「挑戦かな?」

 

莉子は即答し、周りが盛り上がる中

お前が出題する

 

「この中に好きな人がいたら...告白?

あってる?私のお題の出し方...」

 

“えー?そんなの簡単だよー

えれなー!! だいすきい!!”

 

莉子が指ハートを作って叫んだ

 

「お前らどんだけ仲良いんだよ」

 

呆れたフリしつつも笑いが止まらない

 

周りからも

 

“さすがの莉子もアオには負けてるけどな”

“ん、それは言えてる~”

 

と声が飛ぶ

 

俺は腕を組みながらそのやりとりをじっと見つめ

フッと笑った

 

「なるほどな

俺の彼女モテるな」

 

えれなの肩に腕をまわし、わざとらしくぐいっと引き寄せる

 

「はいはい、次は俺の指名だ

...お前だ、後ろの席のショータ」

 

にやっと笑いながら指を差す

 

「真実か挑戦か――どっちだ?」

 

 

***

 

 

そんなふうに

バスの中では笑い声がずっと続いていた

ゲームはまだまだ盛り上がり続けたけど――

俺の隣でえれなが笑ってくれてるだけで

正直もうそれで充分だった