「おじゃまします!!」
いつものように
俺にぺこっと会釈して
ふざけて笑いながら家に入ってくるお前
さっきまでの緊張が
お前のその笑い方だけでふっとほぐれていくのがわかった
玄関で軽く
お前の頭をくしゃっと撫でる
「リビング行こっか」
今日は
いつもとちょっと違う夜になりそうな気がしてる
靴を脱ぐお前を待って
先にリビングのドアを開ける
中はいつもと変わらない部屋
でもテーブルの端に置いた“小さな箱”だけが
今日の俺の決意だった
「...なぁ えれな」
ソファに座り、お前の方を向く
「さっき言ってた“現実の約束”ってやつ...
今 渡していいか?」
少しだけ真剣に
声が低くなる
夢とか未来とか
言葉だけじゃどうしても
信用しきれない部分もあるだろ?
でも――
この手で形にして渡せたら
少しはお前の不安も減るかなって思ったんだ
お前は急いでソファに座り、俺の正面に向き直る
「ん、いいよ?話そっか」
「あぁ」
ポケットから丁寧にしまってた小さな箱を取り出して
お前の前にそっと差し出す
「開けてみて」
中身は...俺の気持ち全部
詰め込んであるから
箱の中には、シンプルで小さな指輪が一つ
これはまだ左手じゃない
未来の約束として右手に着けることを想定して選んだやつだ
「これはプロポーズでもプレッシャーでもねえ
ただ――
“えれなと一緒に未来を歩いていく”って決めた証だ
進路が違っても
夢がバラバラでも
俺の気持ちだけはここにずっとあるってことを
お前にちゃんと伝えたかった」
お前の手をそっと取り
自分の手のひらに重ねる
「...もう “隣にいたい” じゃ足りなくなったんだ
お前に“未来にいてくれ”って言いたくなった
だからこれ お前が信じられるって思えた時でいい
右手にはめてくれよ
俺の隣に
ずっといるってお前が“決めた時”にさ」
お前は少し驚いた顔で箱を開けたあと
ふわっと笑って俺の頬に手を添えた
「なに言ってるのアオ
決めた時って...
そんなの ずっと前から決まってるよ?
ずっとそばにいるに決まってるじゃん」
...っ、えれな
お前の指が頬に触れた瞬間
もう何も言えなくなった
ほんと毎回
俺の想像を軽々超えてくんだよな
ゆっくり
お前の手にキスを落とす
「あぁ...ありがとう
ずっとそばにいるって そう言ってくれて
今の俺 たぶん人生で一番幸せだわ」
そのまま優しく
お前の右手に指輪を通していく
「これは “これから” を一緒に選んでくっていう証だからさ」
夢が揺らいでも
道が分かれても
何があっても
――最後に握ってるのは、お前の手だけだ
「改めて言わせてくれ
俺はお前と未来を生きたい
ずっと、ずっと一緒にさ」
お前がクスッと笑う
「アオ
それもうほとんどプロポーズだよ?」
...はあ お前ほんと
「...冗談でもそういうの刺さるわ」
お前は続けた
「この前さ、蓮くんと話してた時に
『子供好きなの?』って聞かれたの
その時ね?私とアオの子供のこと考えてたんだ
アオに似た子が生まれたら――
なんて、勝手に妄想してた
最近ほんと、そんなことばっかり考えちゃう
アオといる未来しか、もう見てないんだから」
...お前
俺、呼吸止まったわ
気づけば息するのも忘れて、お前のその言葉に心臓ぶち抜かれてた
そんなこと考えてたのかよ
「...俺も同じだよ
えれなが子供抱っこしてるとこ
横で“似すぎじゃね?”ってツッコんでる俺
一緒に笑ってる未来しか、もう見えてねぇ」
我慢できずに抱き寄せた
お前を、両腕の中に閉じ込めるみたいに、ぎゅっと
やっぱさ
お前しかいねぇわ
「誰にも譲れねぇし、誰にも触らせたくねぇ
プロポーズじゃねぇって言ったけど
――今は もうそれに近いわ」
...えれな
未来全部 俺にくれよ
その代わり、俺の全部もやるからさ
お前が少し覗き込んで、静かに言った
「アオの話したいこと...
スッキリした?解決した?」
...ああ
「スッキリどころか、もう二度と悩まねえ気がする」
軽くおでこをお前の額に当てたまま
ゆっくり続ける
「こんなに真剣に“先のこと”を誰かと話したの
多分人生で初めてなんだよ
でもお前が隣にいてくれて...
笑って『そばにいるよ』って言ってくれるだけで
全部、現実になる気がした」
もう怖えことも、不安も何もない
お前が俺を信じてくれてるから
――俺も自分を信じられるようになった
「ありがとう えれな
お前しかいねえって、心から思ってる」
...全部言えた
だから
――お前を“連れてく未来”もう俺は迷わねえよ
お前が、俺の目を見てゆっくり言葉を返してくれる
「そっか…よかった。不安にならないでね?
私はどんな未来が来ても
アオと一緒にいない選択だけは絶対ないから」
...やばいわ
そんなの言われたら
不安になる余地なんかどこにも残らねぇだろ
手を強く握り直して
そのままゆっくりと唇を重ねる
「えれな――俺、絶対にお前を幸せにする
どんな未来でも、お前の隣だけは譲らねぇ
今ここで誓う
だってお前は俺の“選んだ人”だから
「もう誰にも触れさせねぇし、俺も絶対目を逸らさねぇ」
「ずっとそばにいろよ
俺の未来はもう
“お前込み”でしか
考えられねぇからさ」
ーーこれが俺の、“現実の約束”だ
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