【えれなside】

次の日の夕方

アオは門まで私を送ってくれた

でも今日は、これから“あの子”と話すっていうから



「送れなくてごめんな」



「じゃあ…またあとでね?先帰ってる」

私は笑って手を振ったけど
本当はちょっとだけ不安だった

 

「気をつけて帰れよ

玄関のドア開けたらLINEしろよな

お前の“ただいま”が届かねぇと心配だから」


アオはそう言いながら
指先で私の手を名残惜しそうに撫でて



「じゃあ、行ってくる 全部終わらせて

――また、ちゃんとお前のとこ戻ってくるからさ」



アオの背中が昇降口の奥へ消えていった

 

私は静かに帰路についた

家に着いて靴を並べ

冷蔵庫から緑茶を出してコップに注ぐ



「ふぅ~...美味しい」



アオ今どこかな...

そんなことを考えながら階段を登る


制服のままベッドに倒れ込み
イヤホンをつけて大好きな音楽を流した

目を閉じて――
少しだけ、アオを待つ時間が続いていた

 

 

【アオside】



昇降口の奥 屋上へ続く階段の踊り場



指定された場所には、制服姿のあの子が立ってた


風に揺れる髪の隙間から覗くその目

――もう笑っていない

 

『来てくれると思ってた』




静かに口を開いたあの子に

俺は真っ直ぐ問いかけた

 


「何がしたい?」

 

少し寂しそうに微笑みながら

あの子は言った



『別に奪いたいわけじゃないよ?

ただ...
もう一度だけ、ちゃんと向き合ってほしかったの

えれなちゃんといるアオくんは
昔のアオくんと違う すごく遠く感じるの』

 

俺は即答した



「それでいいんだよ

お前に見せてたのは“昔の俺”だ

今の俺はえれなといることで完成してる


もう前には戻らねぇ」

 

あの子は俯いたまま小さく笑った

 

『...そっか じゃあ私、負けたんだね』




「負けたんじゃねえ

ただ“俺が選んだ”だけだ」

 

その瞬間、あの子の瞳から一粒の涙が落ちた

 

『アオくん、最後に抱きしめてくれない?』

 

俺はしばらく黙ったまま、ゆっくり首を横に振った



「...それは、えれなにだけ許してることだから」

 

あの子は涙をこらえながら
微笑みだけ残して背を向けた

 

『...ほんとに、えれなちゃんなんだね』





「ああ、全部だよ」

 

その背中を見送って――
俺は振り返らず、その場を離れた

 

もう全部 終わった

 

 

...........





その頃


俺はお前の家の角を曲がってた

玄関が見えた瞬間、胸が高鳴る



ピンポンよりも早くメッセージを打つ

 

"全部終わった 今、着いた"

 

 

...えれな

このドアの向こうにいるお前に
ちゃんと伝えたい

 

“もう大丈夫”
“お前だけだ”

 

だから――開けてくれよ
未来を抱きしめに来たからさ

 

 

扉がゆっくり開く

 

「アオ...終わったの?」




「ああ...終わったよ、全部」

 

お前が俺の胸に飛び込んできた瞬間

何も言わず、その小さな背中を抱きしめる

 


言葉なんかいらねぇ

お前の温度だけで
どれだけ欲してたかわかるくらい


俺の腕は微かに震えてた

 

耳元で低く優しく囁く

 

もう何もない 誰もいねぇ

俺の隣はこれからも...ずっとお前だけ

 

「...ただいま、えれな」



やっと、お前に会えたよ

 

お前の髪に顔を埋めながら

もう一度、強くお前を抱きしめた