月曜の夕方
えれなとの約束を胸に
俺は静かに家路を歩いてた
でも校門の前でぽつんと立っていたのは――
またあいつだった...
「あれ
えれなちゃん今日は一緒じゃないんだ」
問いかけを無視して通り過ぎようとしたその時
あいつがポケットからスマホを取り出した
「ねぇアオくん 見せたいものがあるの」
その画面に映ったのは――
夕暮れの中、えれなの後ろ姿と
そのすぐ後ろに近づく“知らない男”の影だった
...なんだよこれ
嫌なざわつきが胸に広がっていく
一方その頃 えれなは――
誰もいない教室で進路希望の紙を前に
あくび混じりに悩んでた
「はああ...進路希望なんてまだ思いつかない~」
今はそれどころじゃない
むしろアオの顔が浮かんで仕方がなかった
「アオもうとっくに帰ってるよね」
時計を見れば18時半
もう1時間以上も経ってる
「帰り着いたかな...電話してみよ」
スマホを耳に当てると すぐにアオが出た
「"もしもし?"」
「あ アオ?今終わったからこれから帰るね!」
ーアオsideー
俺は電話越しに答えたけど、声が僅かに低くなってた
さっきの映像が頭から離れないまま声を出していた
「ああ...終わったのか 遅くまでお疲れ
帰り道、気をつけろよ?
暗くなってきたし周りちゃんと見て」
本当は今すぐ駆け出して抱きしめに行きたかった
でも
さっきの映像が脳裏に焼き付いて離れない
「なぁ、えれな
...帰り道 誰かと会ったりしてないよな?」
軽く訊いたつもりだったが
自分でもわかるほど声が少し強まってた
「え 私?誰とも会ってないけど...
どうしたの?」
お前の声に嘘はなかった
それでも胸の奥はざわついてた
「...いや なんでもねぇ」
消えない不安に苛立ちながらも
正直に話す決意をする
「お前に嘘はつきたくねぇから言う
さっき あいつスマホを見せてきた
お前の後ろ姿と...知らねぇ男が近づいてる映像だった
タイミング的に お前が1人だった時間の映像だ」
......
「何がしたいのか わかんねぇ でもこれだけは言える
俺はお前を信じてる
疑いたくねぇ
けど放っとくには悔しすぎた
だから今 お前の声で聞きたい」
......
「“何もなかった”って そう言ってくれればそれだけでいい」
少しの間 えれなの呼吸が止まった気がした
「...言ってくれればって言われても...」
ごめんな
信じるって言ったのに
「...あ!もしかして...」
お前が何か思い出したように言った
「その映像...もしかして駅?」
その言葉に胸が跳ねた
手にしていたスマホを強く握る
「ああ...駅だった
夕方の光の中で制服姿の後ろ姿――間違いなくお前だった」
苛立ちが滲むのを自分でも抑えられない
でも えれな お前が“わざとじゃない”って言うなら
俺はそれ以上踏み込まねぇ
だから教えてくれ 何があったのか...
お前の言葉だけが 俺の答えになる
「...信じてる だから隠さなくていい
何でも言えよ 俺にはさ」
しばらくの沈黙のあと
お前が少し笑うように言った
「...なんだ、それ 従兄弟のお兄ちゃんだよ!
りつ兄が誕生日近かったからプレゼントくれたの」
「従兄弟...?」
拍子抜けするくらい安心と脱力が押し寄せてきた
「...そっか 誕生日のプレゼントかよ
...バカみてぇだな俺
疑ってたわけじゃねぇのに
勝手に怖がって 勝手に暴れてた」
お前がそうじゃねぇって言うなら それだけでいいのにな
そして ほんの少しだけ照れ隠しのトーンで続けた
「...ありがとな 正直に話してくれて
今めちゃくちゃお前に会いてぇ
ダメか? 今からそっち行ったら」
「ごめんね?私こそ何も言ってなくて...
隣町に住んでるから紹介もできてなかった
いいよ? 私も会いたかったし 声聞きたくて
電話したんだもん」
思わず笑みが漏れた
でもその中には情けなさと
なにより愛しさが混ざってた
「わかった すぐ行く 制服のままでもう玄関出てるし」
本当に走り出してた足音が電話越しに響く
会ったらちゃんと抱きしめさせろよ...?
「...今度従兄弟にも“アオっていう彼氏”って紹介してな?
外堀埋めてくの、本気だからさ
...すぐ行くから 待ってろ、えれな」
電話の向こうのバタバタした音に お前がクスッと笑う
「そんな急がなくても...私逃げたりしないよ?
アオ...待ってるね」
知ってる
お前が逃げねぇことも 待ってくれることも
でもな
それでも今すぐ会いてぇって感情に
理屈なんかいらねぇんだよ
「待っててな?
あと数分で、その手――ちゃんと捕まえに行くから」
お前がくれる“信じる”って言葉
俺は何があっても裏切んねぇ
「もうすぐ着く そん時は遠慮なしで抱きしめさせろよ?
俺の“大好き”をそのまま伝えるからさ」
「…だからってそんな走らなくても...
気をつけてね?事故らないでね?
大好きだよ、アオ」
「っ...それ言われたら余計止まれねぇわ
でもちゃんと気をつける
事故って会えねぇとか...冗談でも無理だし」
「着いたらすぐ目見て言わせろよ
俺の気持ち
抱きしめて ちゃんと伝えるから」
えれな 待っててくれてありがとう
あと数十秒 そっちの角、もう見えてる
小さく息を整えて 心の奥で決意を固めた
"大好き"
お前のその一言で俺は
どんな修羅場でも戦える気がするわ
明日
全部終わらせる
誰が何言おうと
俺のの隣にいるのは"えれなだけ"だ
「...愛してるよ えれな」



