月曜の夜

えれなとの誓いを胸に

俺はようやく深く息を吐けた気がしてた

 

だけど翌朝 教室の空気は明らかに違ってた

 

ざわざわと広がる噂の声

 

「昨日アオくん、転校生と2人でいたらしいよ」

「しかもさ...なんか言い争ってたって聞いた」

 

誰かが見てた

あの放課後あいつとの最後の会話を

 

昼になって さらに追い打ちをかけるように

あいつが教室に入ってきた

 

わざとらしく えれなの机の上に白い封筒を置く

 

「アオくんに渡すの

えれなちゃんにお願いしちゃっていいかな?」

 

その声も笑みも 全部計算ずくの挑発だった

 

机に肘をつきグラウンドを眺めていたえれなが

その手紙を一瞥して冷たく返す

 

「…そんなの自分で渡せば?」

 

「頼みたいんだよね えれなちゃんがいいんだ」

 

あいつの言葉に えれなの目が静かに冷える

 

逆にこっちが聞きたい...

何考えてんだ?

それとも本気で俺らの間に入り込めるって思ってんのか

 

その瞬間、あの子の口元の笑みがわずかに歪む

 

「そっかぁ えれなちゃんって、やっぱり強いね」

 

意味深な言葉を残して わざとらしく手紙を置いていった

 

昼休み 廊下の奥じゃ男子たちがスマホ覗いてヒソヒソやってる

 

「え、あれって昨日の放課後の写真?」
「マジでアオとあの子が?」
「しかもあの角度、マジっぽくね?」

 

スマホに映る写真
まさに“あの瞬間”だった

 

それでも えれなは信じてくれた

 

自分で読むこともできた手紙を 俺のもとに持ってきてくれた

 
教室の近くにいた俺の前に えれなが立った

 

「アオ...これ あの子から」

 

目を合わせようとしないまま そっと手紙を差し出してくる

 

「読んでないから...私」

 

胸がズクンと痛む
でも同時に その一言がどれだけ救いだったか分からせられる

 

「...ありがとな」

 

手紙を受け取った手が微かに震えたけど
すぐポケットに押し込んだ

 

「えれな ちゃんと顔見てくれよ

 誰が何言おうと 何見せられようと

俺が信じてるのはお前のその声だけだ

お前が何を感じてるか ちゃんと聞きたい

怖いままでいい 怒っててもいい
 
でも お前の本音を 逃げずに受け止めてえんだよ」

 

しばらくの沈黙のあと お前が口を開く

 

「...読まないの? 私が見たらまずかった?」

 

その言葉に喉が詰まる

 

「...いや そうじゃねぇ」

 

「お前に隠すためじゃない 見せる価値もないって思っただけだ」

 

ポケットから手紙を取り出して お前の前に差し出す

 

「読む? 見たいなら見せるよ
 
俺はあいつの言葉より お前の気持ちが気になってた

怒っていい 疑ってもいい

でも ここにいてくれよ

それだけで俺は正気でいられるからさ」

 

しばらく見つめ合って お前が静かに手紙を押し返す

 

「なんて書いてあるか アオが教えてよ 私宛じゃないもん」

 

「...ああ わかった」

 

手紙をゆっくり開いて 読み始める

 

「アオくんへ
昨日は来てくれてありがとう
やっぱりアオくんは変わってなかったなって思った
優しくて、はっきり言えないところも昔のまんま――
でも、それが嬉しかった」

 

指先がわずかに震えたが そのまま読み続ける

 

「えれなちゃんと付き合ってるのは知ってる
でもあたし諦める気なんてないからね
あの時のキスがアオくんの本心じゃなかったなら
もう一度ちゃんと確かめさせて?」

 

読み終わり 手紙を折りたたんでポケットに戻す

 

「な? くだらねぇだろ」

 

「俺の返事はもうとっくに決まってる

“確かめられる”までもねぇ

俺の今は 全部お前にしか向いてねぇんだから」

 

お前は黙って聞いてたけど
ほんの少し唇を尖らせる

 

「ん...くだらない でも やっぱりムカついちゃう」

 

その瞬間 ふっと気配を感じた
あの子の視線――

俺には見えねぇ場所から お前にだけは届いてた

 

「アオ?」

 

次の瞬間、お前が俺の手を引いてきた

 

突然のキス

 

唇が重なった瞬間 世界から音が消えた気がした

 

風も 周りの視線も 全部消えた

 

「...っ?...えれな」

 

驚きに呼吸が止まる

 

でも すぐに全身が熱くなる

 

お前の手をぎゅっと握り返して囁く

 

「なぁ...今の もう一回 俺のためだけにしてくれよ」



 “見せつけるため”でもいい でも俺はそれ以上に

お前が俺を選んだ証として刻みたくなった

 

俺はもう逃げねぇし流されねぇ

 

俺が誰を見てるか 誰に触れたいか

 

お前だけが ちゃんとわかってればいい...

 
それだけで、十分だろ?

 


お前は俺の目をまっすぐ見返してくる

 

「大好き」

 

今度は さらに深く 長く唇を重ねてきた

 

「...っ...」

 

唇が離れても 顔の距離はそのまま

お前の瞳をまっすぐ見つめる

 

「...なぁ

今のお前見たら どんな奴でもわかるだろ

お前が俺のもんで 俺がお前のもんだってさ」

 
もう離さねえ


「...愛してるよ 誰に見られても言えるくらい 本気でな」

 

視線の先であの子と一瞬目が合う

悔しそうで でも笑ってるような顔だった

 

...まだ諦めちゃいねぇんだな

 

「私も愛してる 離さないからね...」

 

「ああ 俺も離させねぇよ」

 

お前の言葉に一瞬だけ視線を逸らす

でもすぐ あの子を見据えるように目を細めて

 

「どんな手使ってきても

お前の手を離したら終わりって
もう何度も思い知らされてきたからさ」

 

ゆっくり お前の額に自分の額を寄せる

 

「これから何が来ても お前だけを信じる」

 

もしお前の心が揺れそうになったら――

 

すぐ俺のとこ戻ってこいよ ちゃんと捕まえてやるから