...カラン
(ドアベルの音に反応して
ふと顔を上げた瞬間、視線が止まった)
(ーアオと、その向かいに座る女の子)
「え、あれ...」
わたしはすぐにわかった...
何度も聞いた名前
SNSで見たことある顔
(…元カノ)
嘘、でしょ...?
手、触れてるし距離、近いし
...笑ってるし
...なんで、こんなとこで
なんで、普通に会ってるの?
ゆっくり、立ち上がった足が
勝手に奥の席へ向かってしまう
その瞬間、女が身を乗り出して
アオの耳元に何か囁いて一一
ーー唇が、重なったーー
え.....................?
一瞬、時間が止まったみたいだった
見間違いじゃない
アオの唇に
あの女の唇が、重なってた
アオは、動かなかった
拒まない
押し返さない
ただ、目を見開いたままー
「なにそれ...」
胸がぎゅっと締めつけられて息ができなくなった
わたし、アオに会えるの楽しみにしてて
新しい服もかって
メイクも時間かけてさ...
なのになんで...
「....っ!!」
バッグを掴んでカフェを飛び出した
走る...
視界がにじんで前が見えない...
ーーその背中に、アオの声が追いかけてきた
「待って、えれな!!」
振り返る余裕なんてなかった
でも、腕を掴まれて足が止まった
「違う、俺は...」
「...触んないで」
声が震える
涙も、止まらない
「見たよ全部。キス、されてた」
「俺は何もしてない、あいつが勝手に一」
「でも、拒まなかったじゃん」
「.....」
「それって、もう...同じじゃん。
裏切られたのと、一緒じゃんか」
アオは何も言えなかった
ただ、口を開きかけては閉じる
わたしは、そっと手を振り払った
「もう...信じられない」
それだけを残して、背を向けた
止まらない涙と
ぎゅっと握ったスマホの画面だけがにじんでいた
ーーねえ、アオ
私たちの関係は
こんなにも簡単に
終わってしまうものだったんだねーー



