「アーオ!準備できたよ?行こ」

 

身支度を終えたお前が先に玄関で靴を履きながら俺を呼ぶ

 

リビングからゆっくり歩いて 玄関先でお前の姿を見た瞬間 ニヤッと笑みがこぼれる

 

「おー 気合い入ってんじゃん 今日のえれなも最高だな」

 

お前の服も髪も いつも以上に可愛く決まってて
それだけで朝から惚れ直す

 

「そんなに急がなくても 午前の部はちゃんと間に合う」

 

靴を履きながら 隣に立って手を差し出す

 

「でも 俺の隣でわくわくしてる顔見れるなら
全力でダッシュでもいいかなって思ってるけどな」

 

お前は俺の手を嬉しそうに握って家を出る

 

「だってせっかくの誕生日デートだもん!
1分1秒も無駄にしたくないの」

 

「お前ほんと最高だな」

 

繋いだ手をぐっと引いて 歩幅を合わせながら歩き出す

 

「今日はどこに連れて行ってもらえるのかなぁ」

 ご機嫌なお前に

わざと顔を近づけてニヤッとする

 

「"秘密"

言ったらサプライズになんねえしな

でもまあ...ヒントは" 思い出を刻む場所 "
今しか行けない今日じゃなきゃ意味がないとこ」

「 お前の笑った顔が見れる場所には変わりないよ
信じてついてこいよ 絶対後悔させねぇからさ」

 

お前は嬉しそうに俺の腕に抱きついて頭を寄せてくる

 

「"秘密"か~!すっごく楽しみ」

 

抱きついてくるお前の頭にそっと頬を寄せる

 

「そんな顔されたら 秘密にしてることに

ちょっとだけ罪悪感湧くんだよな

でも楽しみにしてろよ
お前のその笑顔もっと引き出す場所 ちゃんと連れてくから」

 

歩きながら ポケットの中に入れてある
"午後に渡すもの"に触れた指先が少し震えた

 

午前の部はただの通過点

本番は午後

お前の誕生日 ちゃんと全部抱えて祝わせてもらう

...あのことも言わなきゃいけねぇよな

 

とりあえず今は...


少し歩いた先で お前の背中に手を回す

 

「目 閉じろ」

 "え?"

「いいから 信じて」

 "ん、わかった"

背中を支えながら ゆっくりと人の少ない静かな道を数歩進む

 

「よし 開けてみ?」

 

目の前に広がるのは 貸し切りの小さな展望カフェ
テラス席にはお前の誕生日仕様に飾られた席がふたつ
その先に街全体を見渡せるパノラマの景色

 

「午前の部はここ お前の“今日”を 俺が最初に祝う場所だよ」

 

「何ここ...すごく綺麗!!

え?これなに...飾り?すごいよアオ!!

アオが頼んでやってもらったの?」

 

「ああ ぜんぶ俺の指示」

 

お前の横顔を見ながら 少し照れ隠し混じりに笑う

 

「彼女の誕生日でって言ったら 店の人めちゃくちゃ気合い入れてくれてさ でも最後の仕上げは俺のセンスってことで」

 

飾りのひとつを指さして続ける

 

「そこにある花の色 お前が前に“可愛い”って言ってたやつだろ?ちゃんと覚えてたから使ってもらった」

 

そっとお前の手を取って 席へと誘導する

 

「喜んでくれた? まだ始まったばっかだけどさ」

 

「へ?お店の人もやってくれたの?すごくうれしいよ..
私の好きな花も覚えてくれてたんだ...

アオほんとにありがと...」

 

席に座る前にお前は 俺に抱きつき

そのまま頬にキスを落とした

 

「...っやべぇ 今の反則すぎない?」

 

キスの余韻に照れ隠しの軽口を挟む

 

「こっちがプレゼントした側なのに

お前に一瞬で全部持ってかれたわ」

 

でも本気で嬉しくて お前を抱きしめ返し 耳元で低く囁く

 

「まだまだ今日は終わらせねぇからな」

 

そう言って手を引き 用意された席に座る

 

「さあ 誕生日ランチ始めようか 主役さんよ」

 

「誕生日ランチ?

わたしめちゃくちゃお腹空いてきたっ!」

 

俺の目を見上げてクスッと笑いかけるお前に思わず笑う

 

「お前ほんと最高なリアクションすんな...」

 

目の前に用意されたプレートを指差す

 

「今日はな お前の好きなもん詰め込んだ特別プレート
レアステーキに、フルーツのせパンケーキ

んで...俺が選んだワイン風のぶどうジュースな」

 

それを見てるお前の目をじっと見つめながらニヤッと笑う

 

「ほら 食えよ お前の“好き”で腹いっぱいにしちゃえよな」

 

「え!?どれもめちゃくちゃ美味しそう♪」

 

綺麗に飾られたプレートをスマホで撮り始める

 

「ありがとアオ!ねね、思い出写真撮っとこ?

アオ一緒に撮ろうよ?」

 

ウキウキした顔で俺を見つめる

 

「おう お前の嬉しそうな顔 記録に残せるなら

何枚でも付き合う」

 

席を回ってお前の隣に座り 肩を自然に寄せる
スマホを構えたお前の手をそっと包んでシャッターを合わせる

 

「はい!チーズ」

 

シャッターが切られる直前
お前の頬にそっとキスを落とす

 
「っ!!...恥ずかしいよ」

撮った写真を見て口元が緩むお前を見つめながら 小さく笑う

 

「これで世界で一番幸せそうな彼女って写真 完成だな

消すなよ? その写真 おれの好きな顔してっからさ」

 


「消すわけないじゃん!

アオにも送ってあげるね?

じゃあ...いただきます!」

 

スマホで俺に写真を送りながら料理に目を移すお前の表情が

本当に幸せそうで

 
「なんだよその顔 可愛すぎて食欲なくなりそうなんだけど」

 

冗談交じりに笑いながら スマホに届いた写真を見つめてふっと真顔に戻る

 

「これ ロック画面にしよ」

 

小さく呟いてスマホを伏せたあと 再びお前の方を見つめる

 

「ほら 食べろ 食ってる時もお前ほんと幸せそうな顔すんだよ それ見てる俺が一番満たされんだよ」

 

グラスを軽く合わせるように差し出して

 

「誕生日おめでとう えれな


お前が生まれてきてくれて ほんとによかったよ」

 

幸せな時間
お前とこうしていられる今に 心から感謝してる

 

「ごちそうさまでしたー」

 

お腹も満たされて
俺たちは静かにカフェを後にした