……モデルが、来ない?



「今日の雑誌の撮影はエマともう1人がくる予定だったのよねえ。

それが体調不良で来れなくなったらしいのよ〜…」



困ったわね……と、ユキさんも慌ただしく動き始めた。


……と、思いきやピタリと動きを止めて視線をこちらへ。



「あ、ああっ!こ、ここにいるじゃない……っ!」



ビシッとあたしに向け指を指し、大声を上げたユキさん。



「ちょ……ユ、ユキ……?」



そんなユキさんを見て焦るお姉ちゃんと、あたしを見て眉を顰めるスタッフさん達。



「いや、ユキさん……?さすがにちょっとこの子は……」



と、スタッフさんが動揺することなんて知らないといった感じでユキさんは興奮したように「今すぐメイク室へ紬玖ちゃんを連れてって!!」と指示を出し始めた。



ガシッと捕まれ、行くわよ!とズルズル引きずられていくあたしとぽかーんと見送るお姉ちゃん。



え……えええ〜〜っ!?



抵抗する暇もなく着替えさせられ、目元まである前髪をかきあげられてメイクをしていくユキさん。



「……やっぱり、妃茉の妹なだけあるわね。

どうしてこんなに可愛いのに前髪で隠しちゃうのよもったいない!」



完成された姿を鏡越しに見てギョッとするあたし。

あまりにも普段と違いすぎる自分に驚きが隠せない。



「つ、つぐ……!?」



そんなあたしを一目見て目を開くお姉ちゃん。



「っ、紬玖……っ、」



ぱちりと目が合い、泣きそうになるお姉ちゃん。


そういえば、顔を出すのは何年ぶりだろう……?

家でも学校でも外でもあたしはずっと前髪で目や顔を隠し続けてきた。



なのにこんな形で顔を晒すことになるなんて……。



嫌じゃないと言ったら嘘になる。

ずっと隠し続けてきたのだから当たり前だ。



でもあんなにスタッフさん達が、ユキさんが、

……なによりお姉ちゃんが困ってる顔をしていたらそんなことどうでもいいと思ってしまった。



「いい?紬玖ちゃん

ただ少し微笑むくらいでいいから笑って?ポーズとかはこっちが指示するから安心しなさい」


と、ユキさんに言われ頷く。



メイク部屋から出て、撮影するカメラの前まで行くとスタッフ全員があたしを見ていることに気が付いた。