「な、なんだありゃ?」



それを見た燿は名前を呼ばれたあたしを庇いサッと後ろに隠そうとする。



「甘いわッ!!」



そんな声が聞こえたと同時にあたしの体は気が付いたら燿のそばを離れ、誰かに抱きしめられていた。



「あ、おい!」



「久しぶりね、紬玖ちゃん!妃茉の忘れ物を取りに来てくれたのよね?

ごめんなさいねえ、入口まで行こうとしたのだけれど社長に引き止められてしまって〜」



と、マシンガントークの様に一気に話す彼女……いや、彼はユキさん。


まあ話し方からわかる通り……



「燿じゃないの!久しぶりね〜!

あらやだ、全然気が付かなかったわ。"Over"全員揃ってるなんて珍しいわねえ〜!相変わらずイケメンねあなたたち!」



…………オカマだ。



「って、ユキかよ!驚かすんじゃねえよ!つか紬玖返せよ!」


「嫌よ。紬玖ちゃんはアタシに用事があって来てくれたんだもの!」


「お前じゃなくて妃茉に用事があって来たんだろうが!」



と、何故かあたしの間にたち喧嘩が始まる。

これもここ数年で慣れた光景。


いつもこうして取り合いが始まるのだ。



「……で、その妃茉はどこにいんだよ」


「撮影中よ、だからかわりにあたしが紬玖ちゃんをお迎えに来たのよ。

そういうアナタ達はなんの用で来たのよ」


「俺らは新曲のMVを撮るために来たんだよ」



……いつまであたしの頭上で話をする気なのこの人たち。


痺れを切らしたあたしはとんっと2人を押しのけてようやく解放された。



「紬玖、」



燿に呼ばれ振り返ると、頭に手をポンッと置きいつものように笑って撫でてくる。



「俺らは今から仕事だから、ユキに案内してもらえ。

いいな?1人になるなよ?何かあれば連絡しろよ」



その言葉に素直に頷くと、満足したのか更に撫でられる。

燿は手を離しじゃあな!と瑞希と凪玖と共にどこかへと去っていった。



「燿って実はシスコン??」



「あ?ちげえよアホ!シスコンじゃねえよ」



「いやどう見たってシスコンにしか見えないけど?

というか過保護すぎない?ユキさんいるんだし危険はどう見たってないのに……」



「……いーんだよ、あれくらい過保護で」



そんなことを話していたことなんて知らず、あたしはユキさんに案内され姉の元へと向かうのだった。