「そろそろ準備お願いします!」



そう言われて慌てて凪玖の近くへと行く。



ちらりと凪玖の顔を下から見上げるとバチッと目が合う。


っえ、なに……?

今まで目が合うことなんてほぼなかったのに、何で……?



不思議そうにしていると、「なあ、」と声をかけられる。

あたしを見つめたまま、目を細める凪玖にごくりの唾を飲む。



「お前、俺達を見て泣いてただろ」



「……っ、」



泣いたよ。凪玖、あなたの作った曲を聴いたから。

なんで、と聞かれても分からない。


けどあの時、今まで拒絶していたはずの音をすんなりと受け入れた……ような気がした。



「俺の作った曲を聴くのは、初めてらしいな」



燿にでも聞いたのだろうか。

どこまで話したかは知らないけど、多分燿はただあたしがOverの曲を聴いたことがないとだけ説明したのだろう。



その言葉に頷くと、凪玖は少しだけ口角を上げた……気がした。



「……そうか」



それだけ呟くと、やっとあたしから目を逸らした凪玖。


……何?

泣いたのがよくなかった……?



スマホを取りだし、『ありがとう』と打ったあと画面を見せる。



「……ありがとう?」



感謝されると思っていなかった凪玖は少し眉を顰め、あたしを再び見てきた。



『ずっと音楽が嫌いだった。

でも、凪玖の曲を聴いたら少しだけ気が楽になったの。……だから、ありがとう』



ほんの少しだけ

口角を上げてそう言うと目を開いて驚く凪玖。



「そろそろ本番行きます!スタンバイお願いします〜!」



そんなスタッフの掛け声が聞こえ、少し凪玖との距離を詰める。



「本番行きます!3、2……、」



えーっと確か、頭を撫でられるシーンだから……

凪玖の目の前に立って、じっとしてればいいんだよね?



と、燿に言われた流れを思い出そうとしたその瞬間、腕を引っ張られバランスを崩し身体が勝手に前へと倒れ始める。



……え?

な、何……?


目をぎゅっと瞑り、衝撃に耐えようとすると柔らかい何かに顔がぶつかる。



そしてそのまま腰と頭に手が回り、抱きしめられる形となっている事に気が付いたのは約5秒後の事だった。