「はぁ!!?

モデルが来ねえ……!?」



響き渡る燿の声。


ざわつくスタジオ。


ドタバタと歩き回るスタッフ。



「どうすんだよ、スタジオ借りれんのも今日だけなんだぞ!」



「すみません、手違いでモデルとの契約で日付がズレていたみたいで……っ」



「……っ、しかたねえ。今このスタジオにいるやつの中で誰か……」



はっと思いついたようにあたしに視線を送る燿。



「紬玖、妃茉は?どこに行った?」



ガシッと肩を捕まれ、切羽詰まった状態で聞いてくる燿に『仕事に行っちゃった』と伝えるとタイミング悪すぎだろ!!とキレ始めた。



「……ねえ、燿」



「なんだよ、瑞希」



「その子じゃダメなの?」



と、瑞希が首を傾げながらあたしを指さして言ってきた。



その子、って……あたしの事……?


いやいや、そんなまさか!

だってあたしは地味だしそもそもモデルですら無いんだし!



「MVに映るのはどうせ後ろ姿なんだし、顔が映ることもバレることも無いから安心して?

それならモデルじゃないキミでも出来るでしょ?」



……あたしの考えてること全て無駄なようです。

初めて会う人なのにこんなにもあたしの考えてること分かるなんてこの人侮れない……


ね?っとニコッと笑いながらあたしを見る瑞希と、心配そうにする燿。



「でも紬玖……お前、」



「おい待てよ、俺は許可してねえぞ」



燿の言葉を遮り、不機嫌そうに割り込んできた凪玖。


そんな凪玖に瑞希はニヤリと笑って、「凪玖だって誰かも知らない女と撮影するよりこの子と撮った方がまだいいんじゃない?」と呟いた。



「…………」



「何も言わないってことはいいってことだよね?

はい、じゃあ決まり。メイクさん、この子よろしくね〜」



グイッと引っ張られ、抵抗する暇もなくメイクさんに預けられたあたしはそのまま連れ去られていく。



ちょ……あたし、まだやるなんて言ってない……!!

ていうか、今日こういうの2回目なんですけど〜〜!!?


お、お姉ちゃん助けてえぇぇ!!



そんなあたしの心の叫びなんて知らず、ユキさんに連れていかれた妃茉は泣きながら仕事をしているのであった。