あたし、神城紬玖(かみしろつぐ)は、小学6年の時に"声"を失った。



『心因性失声症』



強いストレス、トラウマ、不安、心的外傷後ストレス障害などが原因で声が出なくなったりする病気だ。



この病気のせいで全く声が出なくなり、ほとんどの会話をスマホのメモや紙に書くことで今まで何とかコミュニケーションを取ってきた。



初めは慣れず混乱していたお姉ちゃんや燿も、今ではメモが無くてもあたしの表情や仕草で感情を読み取って察してくれる。



事情を知らないOverの瑞希や凪玖はあたしが一言も話さないことにきっと不審に思っているのかもしれない。


でもきっと燿がそれとなく言ってくれたんだろう。

表情では特に疑問や不審な感情はなかったから理解してくれたと認識した。



声が出なくなったことに対して、周囲からの視線にいつしか敏感に察知できるようになったらしい。


ある程度の顔の表情や声色、話し方で相手がどう思っているかの感情が分かるようになった。



「エマッ!大変よ、ちょっと来て!」



「……ユキ?どうしたの?今日の仕事はもう終わりでしょ?」



「そのはずだったんだけど、急遽社長が仕事増やしてきたのよ!打ち合わせが入ったからアンタも来なさい!」



プンプンと怒りながらスタジオに入ってきて、お姉ちゃんの横へ並ぶユキさん。



それを聞いたお姉ちゃんは「こ、これから打ち合わせ!?アホじゃないの!?」と絶望した声で頭を抱える。



「悪いけど今日は帰れないわよ?さ、行くわよ!

紬玖ちゃん、悪いんだけれどこの事燿に伝えておいてネ」



「いやぁあ!この後せっかく紬玖達とご飯だったのに……!」



半泣き状態のお姉ちゃんに「黙らっしゃい!行くわよ!」とユキさん問答無用で引きずって出ていってしまった。



お姉ちゃん大人気女優として『エマ』を育てたのは、ユキさんだ。

そしてこの芸能界に入ってすぐにマネージャーとしてお姉ちゃんを支え続けている。



……って、ユキさんの話をしてる場合じゃなくない?

燿達が終わるまであたし一人でここにいるの……?


スタジオの隅でとにかく燿達を待とう。



そう思い、移動しようとした時だった。