「ねえ、紬玖……」


再び音楽が流れ始め、燿達が仕事に戻る姿を見たままお姉ちゃんはあたしの名前を呼んだ。



「もう自分を許してもいいんじゃないの……?」



「………、」



そんな事は無い……


あたしの"罪"は一生許されないんだよ。



「なら、どうしてそんなに燿達をみて苦しそうにするのよ

紬玖、あなた気付いてないの?」



すっとあたしの頬に手を置き心配そうに見るお姉ちゃん。



「……っ、」



自分でも気付かないうちに、涙を流していた。



あんなにキツそうなダンスにカメラの前で楽しそうに踊る燿達。

この歌もきっと3人で作ったもの。


前に聞いたことがある。

基本的にOverの作詞作曲をするのは、凪玖だと。


その曲を聞いてダンスの振り付けをするのが瑞希で、それ以外の服装やライブとかでの立ち回り全てを頭の回転が早い燿がしている。


できる限りのパフォーマンスを、3人で作り上げている。

1度だけ、燿がそうやって話してくれたことがある。



「凪玖の曲は聞く人全員を振り向かせるくらいすげえんだよな」



いつしかボソッとそんなことを呟いてた燿。


その時のあたしは音楽なんて嫌いで嫌いで仕方なくて。

……音すら耳に入れたくなくて。


ずっと両手で耳を塞ぎ込んでた。



……なのに、不思議とOverの曲を受け入れてしまっている自分がいて


"音"も"歌"も遠ざけていたはずの自分がなんだったんだろうと思わせてくるようで


歌いたいと思わせるほどに凪玖の作る曲と歌声はあたしにとって衝撃的だった。



「泣くくらい、後悔してるんじゃないの?」




……してるよ。後悔しかしていない。



「いつになったらあなたの"声"は戻るのかしら」



……分からない。


でもきっと、あたしがあたしを許す時が来たら……



「あたしはまた聴きたいの。昔のように笑って楽しく歌ってる紬玖を見たい……」



……きっと"声"が出せる日が来るのかもしれない。


そしたらまた、あたしは昔みたいに笑えるのかな。




「……その日をいつまでもあたしと燿は待ってるわよ」



うん。その日が来たらね。

そんな意味を込めて、お姉ちゃんに微笑んだ。