「さ、ついたついた!」



そういって遠慮なくスタジオへ入っていくお姉ちゃん。

当然、手を繋がれているあたしも自然と中へ入るわけで……




「あ、やってるやってる!」



今日ここに来たのは確か、MVの撮影って言ってたような……



「……っ、」



3人の姿に息を飲む。



音楽に合わせ、ぴったりと揃ったダンス。

元々整っていた顔もメイクで更に仕上げていて……

髪の毛も先程とは違いセットされている。


今アーティストの中で最も売れているグループ……これが、"Over"の3人組。



耳に残る歌声と歌いたくなるようなメロディーにあたしは思わず耳を塞ぐ。



「っ、」



「紬玖……」



そんなあたしを見て、心配そうに見つめるお姉ちゃん。



今まであたしはOverの曲を聴いたことがない。

……違う。Overだけじゃない。



ここ6年間、あたしは全ての『音』を消して生きてきた。

それは幼なじみの兄である燿がいるグループとて同じこと。



今まで一度も、Overとしての燿をあたしは見た事が無かった。



「……っ、」



震える手と身体。

頭の中で振り返る昔の自分が見た景色。

フラッシュバックする過去。


音から……歌から逃げてきたあたしを追い詰める様な、そんな気分にさせられた。


それなのに。

Overを見て、音を聞いて涙が溢れ出てくるのはどうしてなの……?


「……紬玖、」



「……ふ、っ、」



ひゅっと声にもならない嗚咽声が出る。


……泣くな。ここはOverのスタジオ。

これ以上お姉ちゃんにも燿にも迷惑かけたらダメ。



グッとこらえ、前を向く。



『凄いね、燿』



そうお姉ちゃんに伝えると、そうね……と微笑んでくれた。