お姉さんが私に向かって微笑む。
その顔はほんの少しニヤッとしているように見えた。
え?
お姉さんは顔を近づけて私にだけ聞こえるように言う。
「あさひなちゃん、好きなんですよね? さっき写真撮ってるの見えちゃいました。……ぴったりの衣装があるんですよ」
耳がぴくっと動く。
ぴ、ぴったり、とは?
お姉さんは男子たちをほかのスタッフに任せて、私を誘導してくれる。
大量の服がある中を「ええっと、確かここに……」とごそごそ探して、ハンガーを取り出した。
「これです! この衣装ご存じですか?」
お姉さんが手にしたのは、白をベースに胸元の黄色のリボンや肩にピンク色のフリルがあるドレスだ。
私にはこれに見覚えがあった。
これ、あさひなちゃんがCDを発売するときに着てた衣装では⁉ 部屋に貼ってあるポスターの‼
「どうしたんですか、これ! 売ってないですよね?」
食い気味で聞くとお姉さんは小さく笑った。
「ふふっ、今回のために特別に用意されたものなんです。そっくりそのままの複製で。よかったら着てみません?」
お姉さんに聞かれて私はうーんとうなった。
た、確かにファンとして興味ある!
あさひなちゃんが着てる姿、すごくかわいかったし!
でもでもっ、それはあさひなちゃんが元からかわいいからで!
私にこんなかわいい服、着れるはずがないよ~!
悩んでるうちにお姉さんが私の背中を押して、半ば強引に近くの着替えスペースに入れた。
「悩むならやれ! ですよ。ではごゆっくり~」
お姉さんはいたずら顔で微笑みながらカーテンを閉める。
ええええっ! まだ決めたわけじゃないんですけど!
個室の中にぽつんと取り残された私は、しばらくそのまま固まっていた。


