「……ふげっ」

 不幸にもおでこに激突したミケくんがかわいそうな声を出す。

 うええ⁉ い、いったい何で、どこから!

 ユーフォー? それとも空飛ぶ円盤⁉

 ……って、どっちも同じか。

 セルフツッコミをしたところで、ドタタタタッと足音が聞こえてきた。


「あ~! さくら、来た~!」


「……ん?」

 今、私の名前、呼ばれたよね?

 新幹線のような速さで走ってくるのはツインテールをくるりと巻き、野茨の制服を着た子だ。

 動きが速すぎて残像でほぼ見えないけど、この声、聞き覚えがあるような?

「さくら!」

 近づいてきた人影は男子たちを一瞬でかき分け、正面から私に抱きついてきた!

 下から顔を覗き込まれ、私は目をぱちくり。

「あ、(あおい)!」

「もう遅いよ~! 初日から休んじゃうのかと思った」

 小学生のころからの親友・福崎葵(ふくざきあおい)はにっこりと笑う。

 葵はともに受験を乗り越えた仲間であり、一番の親友。小一からの仲だ。

 昨日、今日と男子たちで手いっぱいだったけど、本来なら私、知り合いは葵しかいないはずだったんだよな。

 ……それはそうと。

「葵、なんで靴片方しか履いてないの?」

 葵の右足は白い靴下のみ。

 そのまま走ってきたのか、砂で汚れている。

 葵はあっけらかんとして答える。

「あはは、走ってたら脱げちゃったみたい~。ここら辺に飛んだと思うんだけど……」

 葵が下を見ながら振り向くと、ちょうどミケくんが黒いローファーを拾うところだった。

 正体不明の黒い物体って、葵のローファーだったのか!

 ただのローファーがあんな速さで飛んでくるなんて、恐ろしい。

「あはっ、ごめんなさ~い。けがはないで……す、か?」

 受け取ろうと顔を上げた葵がミケくんの顔を見て、歩き出した姿勢のまま固まった。

「え、葵?」

 葵は無言のまま、スススッと後ずさりする。


「……誰あの人。めっちゃかっこいいんですけど!」


 え?