「起きてください」

「んー、もう食べられません」

 身体を揺り動かされて起きた私は、自分の部屋ではないことに驚いたが、それよりもっと驚いたのは、北斗さんが私の顔を覗き込んでいたことだった。

「うわっ・・・・・・」

「いてっ」

 私が慌てて身体を起こすと、北斗さんの額と私の額がものすごい音を立ててぶつかった。

「いたぁ・・・・・・」

「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。石頭なんで――それより、北斗さんの方が痛かったんじゃないですか?」

「私も石頭なんで、大丈夫です」

「人は見かけによらないですね」

「せっかく起こしてあげたのに、ひどい言われようですね。始業時間は、とっくに過ぎてますよ」

「ええ?」

 時計を見れば、すでに九時を過ぎていた。私は慌てて椅子から立ち上がると、白衣を着た。

「打刻は、特別に私がしておきました。それより、お手洗いに行って顔を洗ってきたらどうです? ひどい顔ですよ」

「ひどい顔?」

 私は化粧をしていない自分の顔に手をあてて、ひどい顔とはどんな顔だろうと、考えてしまっていた。

「お、お手洗いへ行ってきます!!」

 後ろからは、クスクスと笑う北斗さんの声が聞こえた。


※※※※※


 お手洗いから戻ってくると、北斗さんはいつものようにパソコンで研究データを確認していた。

「アルトを見かけませんが、どこへ行ったか知ってますか?」

「そういえば、昨日の夜、第二開発研究室へ遊びに行くようなことを言ってました」

「秤さんのところですか。アルトも、すっかりここの研究所に慣れましたね」

「ええ・・・・・・」

 その時だった──再び研究所内に警報が鳴り響いた。

「またですか」

「うわ、連日とか最低」

「言い方」

「仕方ないじゃないですか。ここ数日で、みんな消耗しきっているんですよ? 北斗さんから、データをバックアップするように言ってくれませんか?」

「いえ、私は――」

 北斗さんが何か言いかけた瞬間、通信が入った。

「誰かいる?」

「秤さん!!」

 通信画面には、第二開発研究室の秤さんが映し出されていた。私が画面に駆け寄ると、秤さんは困ったように笑った。

「アルトが遊びに来てたんだけどね。みんながサイバー攻撃に疲れて、疲弊しているのを見て『僕がどうにかする』って言って、どこかへ行っちゃったのよ。気持ちはありがたいんだけど、何かあっても困るだろうと思って」

「秤さん、連絡ありがとうございます。うちのアルトが、ご迷惑をおかけしてすみません」