すっかりお昼を食べ損ねてしまったなと思いながら研究室へ戻ると、そこには北斗さんの姿があった。

「他の研究所を手伝っていたんだってね。お疲れ様」

「北斗さん。許可をいただかずに、他の研究室を手伝ってしまい、申し訳ありませんでした」

 私が頭を下げると、北斗さんは冷たい目をしていた――でも、口角は上げっている。ちょっと手伝っただけなのに、何でそんなに怒っているんだろう。

「今日の通常業務は、こなせそう?」

「はい。今日の仕事分はきちんとこなしてみせます。遅れた分は、必ず取り返してみせますので!!」

「すごいやる気だね。期待しているよ」

 この時の私はすっかり忘れていた。アルトを3日も放置していることを――。

「ありがとうございます。頑張ります!!」

 深夜12時を過ぎた頃、今日の仕事がやっと終わった。この時間だと、終電には間に合わないだろう──仕方なく、今日は研究所に泊まることにした私は、椅子に座りながら伸びをした。

「ん――」

 横に伸びをしながら画面を見ていると、急に目の前にある画面が暗くなった。

(あれ? まさか、またサイバー攻撃?)

 私が薄暗い研究室の中で一人で慌てていると、そこには半眼をしたアルトが現れた。

(あっ、アルト──また忘れてたわ。ごめん)

 私が心の中でアルトに謝ると、アルトは寝起きなのか、目元を擦りながら、こちらを見ていた。

「アルト、まだ起きてたの?」

「ううん。さっきまで寝てた。ふて寝。さっき起きたところ」

「そっか・・・・・・」

「お昼は?」

「え?」

「お昼食べてないでしょ?」

「う、うん」

 お昼どころか夜ご飯も食べていない。研究所の仕事に熱中している時は、食べなくても平気なのだ。その代わり家に帰ると、たくさん食べてしまう。

「引き出しの3番目開けてみて」

「引き出しの3番目?」

 何のことだろうと思いながらも、私は自分の机の横にあるサイドワゴンの3番目を開けてみた。

「あれ? カップ麺」

 研究所に入ったばかりの頃、私が秤さんから貰ったカップ麺だったことを思い出した。

 新しい味が出たから試してみてと言われて貰ったカップ麺には「やきそば─魅惑のオレンジ味」というタイトルが太文字で書かれていた。賞味期限を確認すると、3ヶ月も先の日にちである。

「すっかり忘れてたわ。アルト、ありがとう」