「おいしい・・・・・・」

「よかった」

「豆から挽いてるんですか?」

「まあね。それくらいしか、私には出来ることがないから。いつもチームのみんなには迷惑掛けてるし」

「迷惑だなんて、そんな――秤さんの研究結果、いつも見てます。あんなに細かく分析出来るなんて、私には真似出来ません」

「そう? お世辞でも嬉しいわ」

「あの、アルトは皆さんに迷惑をかけていませんか?」

「そんなことないわよ。いつも、助かってるの。昨日なんて――」

「昨日?」

「私がお昼にカップラーメン食べてたら、そのカップラーメンには、ゆず胡椒をかけて食べるのが、おすすめだって言うから試しに食べてみたの」

「アルトは、また何を根拠にそんなことを・・・・・・」

「全世界のブログに投稿されている記事を全部調べたら、昨日までの記録で私が食べたカップラーメンに合うおすすめ調味料が16パターン見つかったらしいの。そのうちの52パーセントの人が、ゆず胡椒が合うと言っていたらしいわ」

「微妙な数値」

「私もそう思ったんだけど、アルトに笑顔で言われたら、食べてみたくなっちゃうじゃない?」

「本当にすみません」

「いえ、アルトの話が楽しかったから、私も試してみることにしたの。そしたら、むせちゃって」

「秤さん、ゆず胡椒苦手だったんですか?!」

「あの独特の風味が、どうにも苦手なのよ。でも、ラーメンに入れたら味が変わるかもしれないし、昨日は食べれる気がしたのよ」

「そうだったんですか」

「アルトは謝ってたの。逆にこっちが申し訳なかったわ。アルトは『秤さんがゆず胡椒が苦手なの、データに入れときます』って、言ってた」

「データ?! 個人情報じゃないですか?」

「何でもアルト専用のデータフォルダがあるらしいのよ。研究員のデータを片っ端から集めているみたい。何かあったのかしらね?」

「さぁ・・・・・・」

「時間、大丈夫? もうすぐお昼の時間だけど・・・・・・」

「もうこんな時間?! 秤さん、コーヒーごちそうさまでした」

「いいのよ。また来てね」

 私が帰ろうとした瞬間、研究所内に緊急警報が鳴り響いた。