「もう知らないからっ」

 そう言ったアルトは、いつの間にか画面から消えていた。

「どうしたの?」

 アルトの剣幕に驚いたのか、第二開発研究室の秤さんが心配そうな様子で聞いてきた。

「アルトに会うの三日ぶりだったから、すねちゃったんです」

「三日ぶり?」

「三日前に北斗さんに新しい実証実験の結果報告をしたら、そのまま会議になっちゃって――その後は資料をまとめてたら、てっぺん越えちゃったんです。終電で帰ったんですけど、次の日は午前休もらってたんで、午後から出勤したら、アルトは定期メンテナンスを受けてたみたいで、そのままスリープモードに入っちゃって」

「昨日、アルトは私達の仕事を手伝ってくれてたから──その様子だと、昨日も会えなかったのね?」

「ごめんなさい。アルトがことあるごとに、そちらへお邪魔しちゃって」

「ううん。私達はアルトが来てくれると嬉しいからいいんだけど、アルトは寂しかったんじゃない?」

「たぶん、そうなんだと思います」

 アルトは私と北斗さんが一緒にいるのが気に入らなかったようだ。私は画面を去る際に、アルトが見せた恨みがましい目つきを思い出し、少し気落ちしていた。

「・・・・・・」

「ふふっ・・・・・・」

 考え事をしていると、秤さんはこちらを見て微笑んでいた。

「何だか付き合いたてのカップルみたいね」

「え? カップル?!」

「だってアルトのは、完全にやきもちだったじゃない。違った?」

「いえ、私はアルトの保護者的な立場というか、なんというか・・・・・・」

「じゃあ、私の勘違いだったのね。ごめんなさい」

「いえ・・・・・・」

 秤さんの言葉に動揺しながらも、私は考えていた――私はアルトのことが好きだけど違う。好きの種類が違うのだ。

「コーヒー飲んでいかない? いい豆が手に入ったのよ」

「いえ、私は・・・・・・」

「みんなに出す前の味見。私が買ってきたの。いいでしょ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 秤さんが入れてくれたコーヒーは、今まで飲んだ、どのコーヒーよりも美味しかった。