「ひなちゃん、今体調は平気よね? 何かあったらすぐに呼んでね」
そう言って看護師さんはあたふたと病室を出ていきました。
最近大きな交通事故があったので、来院している人が多く、対応に追われているのでしょう。
犯人は未だに逃走中だそうで、怖い世の中になったものだなぁ……と他人事のように思います。
私の名前は間中日生。みんなからは大体"ひなちゃん"と呼ばれています。
中学2年生、14歳です。
私は原因不明の不治の病にかかっていて、あとちょっとしか生きられません。
少なくとも、20歳は越えられないと伝えられています。
いつ死ぬのかも不明で、明日にはころっと死んでしまうかもしれないみたいです。
怖くないのかとよく問われますが、生きる希望をほぼ失っている私は特に何も感じません。
明日も同じように、毎日行う検査をして、暇な病院生活を送る予定でした。

だけど、それは突然起こったのです。

ロビーに飲み物を買いに行った帰りのこと。
「あの、リハビリ室ってどっちですか?」
肩をとんとんと軽く叩かれて、振り向くと、その子が立っていました。
その子は白銀の髪の毛で、すらっとしていて、肌がとっても白く、人目を引くような群青色の瞳を持つ、とても美しい人でした。
髪の毛は肩につくかつかないかぐらいのぎりぎりのラインで、かなり中性的な子です。
「リハビリ室だったら、1階じゃなくて、2階で……よかったら、案内しましょうか?」
「いいんですか? お願いします……!」
嬉しそうに目を輝かせたその子。
その子は"ことり"と名乗って、にこっと微笑みました。


「ここです」
リハビリ室の目の前まで連れてくると、ことりさんはその美しい笑顔で軽く微笑むと、
「ありがとう、助かったよ」
と言ってリハビリ室に入ろうとしましたが、なぜか一旦立ち止まると、くるりと私の方を振り返り、私に向かってこう聞いてきました。
「きみ、名前は?」
「日生って言います!」
「日生ね、りょーかい」
自分のことはことりって呼んでね。
そう言い残すと、ことりさんはリハビリ室に入って行きました。